不動産屋に逆恨み?

2020年の3月の終わりころ、沖縄県で不動産屋の店舗が全焼した放火事件がありました。不動産業者が管理しているアパートに住んでいる男性が逮捕されましたが、犯行動機を知って驚きました。

今回は放火について書きたいと思います。

 

 

| 沖縄県で不動産店舗を放火

 

沖縄県での放火事件のニュースが流れたのは2020年3月27日頃です。25日の午後3時50分頃に、自らが住むアパートの管理をしている不動産屋の店舗にガソリンをまいて火をつけたそうです。不動産業者の店舗は容疑者の住むアパートの1階でした。

逮捕された80歳の男性の供述では、事件の前に水道料金を滞納して水道栓がとめられていました。事件の2日前には不動産業者に水が出ないとクレームをつけたようです。この容疑者は一人暮らしで、自宅には数年前からガソリンの入ったポリタンクを保管していたとのことです。

住民がガソリンをまいたと近隣住民から119番通報があって消火活動が行われましたが、けが人も延焼もないとのことで、容疑者は現住建造物等放火の容疑で現行犯逮捕されました。

そもそも自宅にガソリンの入った容器があることも怖いですが、水道料金の滞納で水道を止められたにもかかわらず、逆恨みをして不動産屋の店舗を放火してしまうという短絡的な考え方も怖いです。

 

 

| 店舗に放火すれば現住建造物等放火?

 

事件の起こった2020年3月25日は水曜日ですが、被害に遭った不動産屋は営業していたようです。事務員が店内にいたという報道がなされています。

ところで、放火は日本ではかなり重い罪です。たとえば、殺人罪(刑法199条)の刑罰は死刑、無期懲役、5年以上の有期懲役です。条文を見てみましょう。

 

刑法 第199条

人を殺した者は、死刑又は無期若しくは五年以上の懲役に処する。

 

現住建造物等放火罪(刑法108条)も見てみましょう。

 

刑法 108条

放火して、現に人が住居に使用し又は現に人がいる建造物、汽車、電車、艦船又は鉱坑を焼損した者は、死刑又は無期若しくは五年以上の懲役に処する。

 

現住建造物等放火罪の刑罰も死刑、無期懲役、5年以下の有期懲役です。放火は殺人罪と同じ刑罰なのです。

放火に関連して延焼罪(刑法111条)もありますので、放火をすることで建造物などを延焼させると、放火罪だけでなく延焼罪にも問われます。専門的には、放火罪と延焼罪は包括一罪として放火罪のみが成立するようです(大判大2.3.7)。

建造物に侵入して放火した場合には、住居侵入罪(刑法130条)にも問われますが、放火罪とは牽連犯になるようですので(大判明43.2.28)、放火罪と住居侵入罪が成立して刑罰は放火罪の刑罰になります。

さて、住宅でない不動産屋を放火したら“現住”建造物等放火の罪を問われるようですが、住居ではない店舗でも“現住”建造物になるのでしょうか。放火罪には、現住建造物等放火罪以外にも、非現住建造物等放火罪(刑法109条)もあります。

 

刑法 第109条

放火して、現に人が住居に使用せず、かつ、現に人がいない建造物、艦船又は鉱坑を焼損した者は、二年以上の有期懲役に処する。

2 前項の物が自己の所有に係るときは、六月以上七年以下の懲役に処する。ただし、公共の危険を生じなかったときは、罰しない。

 

現住建造物か非現住建造物かで、刑罰の重さがかなりちがいますね。死刑まである現住建造物等放火罪、2年以上の有期懲役の非現住建造物等放火罪。ますます、住居ではない店舗が“現住”建造物なのかどうか問題になりそうです。

結論から言いますと、住居でなくても“現に人がいれば”現住建造物等放火罪になります。条文にそのように書かれているのでしかたありません。住居に使用していなくても人がいる建造物に放火をすれば、現住建造物等放火としてかなり重い罪を犯したことになります。

先に書いた沖縄の事件では、放火当時は店舗に事務員がいましたので現住建造物等放火で間違いないようです。

もし仮に不動産業者が営業しておらず誰も人がいない場合はどうだったのでしょうか。不動産屋はアパートの1階で営業をしていますので、容疑者はアパートに放火したことになります。

アパートには人が住居として使用していますので、不動産屋が定休日であったとしても現住建造物等放火罪に問われることになります。泥棒や空き巣しかいない空家に放火した場合も、放火当時に現に人がいますから現住建造物等放火罪に問われそうです。

 

 

| まとめ

 

1 水道を止められたから不動産屋を放火!?

2 現住建造物等放火罪は殺人罪と同じ刑罰!

3 人が住んでいなくても現住建造物!



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