| ホテルが著作権法違反の疑い
古い話ですが、平成23年1月11日に神戸市のホテルが著作権法違反の疑いをかけられて、生田署に捜索されました。容疑は、家庭用ゲーム機のWiiなどでマリオカートやバイオハザードを著作権者に無断で宿泊客に遊ばせていた疑いです。
ゲームソフトに著作権があることはご存知の方が多いと思いますが、ゲーム機本体とゲームソフトを貸し出して遊ばせることが著作権違反になるのでしょうか?
| 著作権のどの権利を侵害?
著作権は、作った人が自分の考えや感情を作品として表現した物に関する権利を法律によって著作者に与えたモノです。
著作権は大きく分けて2つあります。下の2つ以外にも著作隣接権があります。
1 著作者人格権
著作物で表現されている著作者の人格を守るための権利です。著作者の考えや感情が表現されているわけですから、この表現されたものを著作者の人格権として保護しています。著作者人格権は譲渡することができません。公表権、氏名表示権、同一性保持権の3つがあります。
2 財産権としての著作権
主に問題になるのはこちらの著作権です。著作者が著作物を利用して儲けるための権利です。種類がたくさんあって12に分類されています。
平成23年のホテルの事件では、ゲーム機本体とゲームソフトを貸し出して遊ばせていました。これは上映権を侵害したとされています。
上映権はどんな権利なのでしょうか?条文をそのまま書いても分かりにくいですので簡単に書きますと、フィルムやDVDなどに収録されている著作物を多数の人に見せるために上映する権利です。そのままですね…。
一般的な感覚として“ゲームを上映する”というのは違和感があります。ゲームは遊ぶものです。上映するのとは少し違うような…と思っていますと、最高裁判所の判例がありました。平成14年4月25日、著作権侵害行為差止請求事件です。判決文の全文はこちらです。
この判決で、ゲームソフトは「映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され、かつ、物に固定されている著作物」(著作権法2条3項)だから“映画の著作物”だとしたのです。
映画の著作物を上映するには上映権者の許可が必要です。ただし、ゲームソフトを買った人が個人的に楽しむためにゲームをプレイすることは著作権法上問題ありません。
問題になるのは、営利目的でゲームソフトを利用する場合です。冒頭の事件では実際にゲームを遊んでいるのはお客さんであってホテルではありません。しかし、ホテルが上映の主体と考えられています。これはカラオケ店の映像と同じ考え方です。カラオケを楽しんでいるのはお客さんですが、カラオケの映像を流しているのはカラオケ店だという理屈です。
つまり、ホテルが営業の目的でゲーム機本体とゲームソフトをお客さんに貸し出して遊ばせる行為は著作権の上映権を侵害しているというわけです。
| 漫画喫茶やゲームバーはどうなの?
平成30年4月に、大阪でゲームバーを営むクロノスが平成30年7月28日に閉店するというニュースが流れました。
ゲームバーは、店内で食事や飲み物を楽しむ一方で、設置してある家庭用ゲーム機でゲームを楽しむ場所です。クロノスはコンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)から警告を受けて閉店することになりました。上映権の侵害という理由だそうです。
きちんと著作権の許諾を取っていれば問題ありませんでしたが、無断で貸し出して遊ばせていたことが閉店に追い込まれた原因です。
ところで、全国に多数ある漫画喫茶でもゲーム機を設置しています。こちらは大丈夫なのか心配になりますが、多くの漫画喫茶ではきちんと著作権の許諾を取っているそうです。危ないのは小さな旅館などでのゲームの貸し出しでしょうか。
ゲームに触れて楽しさが分かると購入する可能性もあるわけですから、個人的に思うところではありますが、ゲームの貸し出しをメインに営業している場合以外はあまり目くじらを立てて警告することもないと感じます。
| まとめ
1 ゲームの貸し出しが著作権侵害かも!
2 ゲームソフトは映画の著作物!
3 著作権者の許諾があればゲームの貸し出しもOK!