民法ってどんな法律(意思表示編②)

| 嘘をついたり勘違いしたらどうなるの?

 

前回の記事で騙されたり脅されたりして締結した契約は取り消すことができると書きました。このような詐欺や強迫は瑕疵ある意思表示と呼ばれています。

今回は無効になるような意思表示について書きたいと思います。

1 (通謀)虚偽表示

契約をする当事者がグルになって架空の契約を結ぶ場合を“虚偽表示”と言います。“通謀虚偽表示”と言われることもあります。どんな場面でそのような架空の契約をするのかと言いますと、契約があると誰かに信じさせて騙そうとするときです。“借金のカタに土地を取られそうだから売買したことにして欲しい“というような場合ですね。

虚偽表示で締結した契約は無効です。ただし、善意の第三者には無効を対抗(主張)できません。第三者に過失があったり登記がなかったりしても対抗できません。第三者になる人は、たとえば虚偽表示の目的物を差し押さえた差押債権者です。単なる債権者は第三者に当たりません。

第三者が悪意の場合には無効を対抗できますが、悪意の第三者が善意の転得者に譲渡した場合には無効を対抗できません。善意の第三者は保護されるべきだと考えられているからです。では、善意の第三者が悪意の転得者に譲渡した場合はどうでしょうか。悪意の転得者は保護されるべきではないと思われますが、判例では善意の第三者が現れた後は転得者が悪意でも無効を主張できないとされました。法律関係をややこしくしないためです。

2 心裡留保

心裡留保(しんりりゅうほ)って聞きなれない言葉ですね。法以外で使われる場面ってあるのでしょうか。心裡留保は嘘や冗談で契約を締結した場合です。よく使われる表現では“真意と異なる意思表示”というものがあります。

心裡留保の意思表示は原則有効です。相手の言ったことが本気か冗談かは簡単には分かりません。ですので、契約の相手を保護する必要があるからです。

嘘や冗談で言ったことを相手が知っていた場合や知ることができた場合には、相手を保護する必要がありませんので無効です。

3 錯誤

勘違いや無知によって間違えて契約をした場合を“錯誤”と言います。1000ドルと1000元を同じ価値だと勘違いして1000元で売るという契約をした場合、大阪の土地を売るつもりだった売主が間違えて東京の土地を売ってしまった場合などがあります。

錯誤による意思表示は無効です。ただし、2つの条件があります。

(1)要素の錯誤があること

要素の錯誤は契約の重要な部分に関する錯誤です。先の例でいえば価格や所在ですね。これらは契約の重要な部分です。金額や住所の間違いは要素の錯誤になりえます。

(2)表意者に重大な過失がないこと

表意者というのは表現をした人です。先の例でいえば売主です。間違えたことについて重大な過失があると錯誤による無効を主張できません。

錯誤無効主張できる人は原則として表意者だけです。ただし、表意者が錯誤を認めている場合には表意者の債権者も無効を主張できます。

実はもともと無効は誰でも主張できるものなのです。ところが錯誤無効は間違えた表意者を保護する制度ですから、原則として表意者だけしか主張できないようにされたのです。

錯誤ではこんな場面もあります。近くに駅ができるから土地の値段が上がるだろうと思って土地を購入する場合です。本当に駅ができるのなら問題ありませんが、駅ができるという情報が嘘だった場合には、勘違いがもとで土地を購入したことになります。このような場合は原則として錯誤無効の主張はできません。ただし、判例では、動機が相手に表示されていれば要素の錯誤になって無効主張ができるとされています。

 

 

| まとめ

 

1 無効になる意思表示は3つ!

2 嘘をついても契約は有効!

3 勘違いした場合は契約は無効!



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民法ってどんな法律?(意思表示編①)

前回のブログで民法の基本理念について書きました。今回はもう少し法律らしいことを書きたいと思います。

 

 

| 契約ってなに?

 

契約は契約書がなくても成立します。売買契約を例にしますと、「アンパンをください」というお客さんと「はい、108円です」という店員の会話でアンパンの売買契約が成立します。あとはお金を渡してアンパンを受け取るだけです。簡単に言えば、意思(表示)が一致すると契約は成立します。

余談の豆知識ですが、法律では“意思”という漢字を使い“意志”は使いません。

誰とどのような契約をするかは自由(契約自由の原則)ですが、いったん契約をしたら守らなければいけません。契約を守らないと責任を追及されます。

 

 

| 意思(表示)ってなに?

 

先ほどさらっと“意思(表示)”と書きましたが、意思表示を簡単に説明するのは私には無理です。“〇〇と言ったら××という結果になるけど、××という結果に責任を持てるから◯◯と言った”というものが意思表示です。

ただ、責任を持てない場面もあります。たとえば騙されて契約したとか脅されて契約したとかですね。このような場合の処理の仕方は民法に書かれています。

1 詐欺の場合

騙されて意思表示をした場合を“詐欺”といいます。そんなことはいちいち言われなくても分かってますよね。詐欺によって意思表示をした場合には原則として取り消すことができます。例外は善意の第三者の権利を害する場合です。

またさらっと“善意”と書きましたが、法律上の“善意”は“知らなかった”ということです。逆に“悪意”は“知っていた”ということです。善意の第三者というのは、騙されて契約したことを知らなかった第三者です。

第三者による詐欺というパターンもあります。第三者が騙していた場合は相手方が悪意の場合のみ取り消すことができます。

2 強迫の場合

脅されて意思表示をした場合を“強迫”といいます。民法では“強迫”という漢字を使い“脅迫”は使いません。刑法では“脅迫”ですね。

強迫による意思表示は取り消すことができます。例外はありません。善意の第三者にも意思表示の取り消しを主張できます。

詐欺の場合は善意の第三者には主張できなかったけれど、強迫の場合には善意の第三者にも主張できるのはなぜでしょうか?騙された場合は騙された人にも一定の責任がありますが、脅された場合は脅された人に責任は全くありません。ですから、強迫の場合には善意の第三者にも主張できるのです。

ちなみに、〇〇に××を主張できる場合を“対抗できる”と言います。対抗関係にあるのは“食うか食われるか”という関係にある場合です。相手の権利が認められると自分は権利がなくなるという場合ですね。“強迫の場合には善意の第三者にも対抗できる”という言い方をします。

 

今回は詐欺と強迫で終わります。意思表示には他に(通謀)虚偽表示、心裡留保、錯誤の規定がありますが、次回以降に持ち越したいと思います。

 

 

| まとめ

 

1 契約は口約束でもOK!

2 騙された場合は契約を取り消すことができます!

3 脅された場合も契約を取り消すことができます!



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民法ってどんな法律?

| 民法の中身は多種多様

 

2020年6月までに改正された民法が施行されます。120年ぶりの大改正として一時ニュースにも取り上げられていました。民法改正って言われても法学部の学生や資格試験などで民法を勉強した人以外はよく分かりませんよね?今の民法の基本的な考え方などを書きたいと思います。

民法と一口に言っても、中身は多種多様です。所有権に関するものや契約に関するもの、近隣のトラブル解消法、相続など日常的な事柄の根本的なルールを定めています。簡単に言いますと、契約ごとや事故などの責任について定められたルールですね。

 

 

| 民法の背骨は私的自治

 

民法の基本的な理念は私的自治です。人同士が話し合って自分たちでルールを決めるというものです。ここでは、対等で平等で合理的な選択をする人が念頭に置かれています。このような人は自分に一方的に不利なルールを納得できないので、対案として自分にとって有利な提案をするはずです。そこで折り合いをつけるために話し合って双方が納得できる条件で合意がされることが前提なのです。

私的自治はもう少し具体的に定められています。所有権絶対の原則、契約自由の原則、過失責任の原則の3つです。

所有権絶対の原則は、自分が所有する物は誰にも奪われないし、自分の好きに使ったり処分したりすることができるルールです。現代では当たり前ですが、身分制度のある時代や地域ではとても大切なルールでした。

契約自由の原則は、契約をするかしないか、誰と契約するか、どのような内容で契約するか、どのような様式で契約するかを自由にできるルールです。様式というのは契約書を作るか口頭だけですませるかなどの方法です。

過失責任の原則は、故意や過失があれば責任を取らなければいけないというルールです。交通事故を思い浮かべられるとイメージしやすいかと思います。このルールは契約を守らなかった場合にも適用されます。

 

 

| 民法の運用方法のルール

 

民法自体のルールとは別に、ルールを運用する方法にもルールがあります。ややこしいですね。権利の行使の限界といってもいいかもしれません。信義誠実の原則と権利の濫用です。

信義誠実の原則は、取引関係になった人はお互いに相手の信頼を裏切らないように誠実に行動しなければいけないというルールです。かなりおおざっぱなルールですが、たまに問題になったりします。

権利の濫用は、一見正当な権利の行使でも実質的には社会性に反する場合には権利行使を認めないルールです。こちらもかなりおおざっぱなルールです。

信義誠実の原則も権利の濫用も相手方の信頼を裏切るような行動はダメだというもので、あまり厳密に区別をされないようです。傾向としては、契約に関しては信義誠実の原則、所有権や担保権、親族間については権利の濫用が使われるといわれています。もちろん両方を使った裁判例もあります。

 

 

| まとめ

 

1 改正民法がもうすぐ施行!

2 民法の大原則は私的自治!

3 権利の行使にもルールがあります!



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外国人の不法就労が増えた結果…

| 外国人の不法就労数が増加傾向

 

外国人の不法就労数が少しずつ増えてきています。法務省によりますと、平成29年は6万5270人で前年比3.9%増加、平成30年は6万6498人で前年比1.9%増加しています。

不法就労になるパターンは次の3つがあります。

1 不法滞在者が働くケース

密入国した人や在留期間の切れたオーバーステイの人が働く場合などです。

2 入国管理局から働く許可をもらっていないのに働くケース

観光や知人訪問の目的で入国した人が働いたり、留学生が許可を貰わずにアルバイトをしたりする場合などです。

3 入国管理局から認められた範囲外の仕事をするケース

外国料理店の調理人として働くことを認められた人が工場で単純労働者として働く場合などです。

不法就労すると退去強制になる可能性がありますし、雇用者や仕事をあっせんした人は不法就労助長罪に問われて3年以下の懲役か300万円以下の罰金になる可能性があります。また、ハローワークに外国人を雇用したり退職したりしたときの届出をしない場合や虚偽の届出をした場合には30万円以下の罰金に処せられる可能性があります。

雇用者は外国人を雇用するときには在留カードを必ず確認してください。在留カードの真ん中あたりに“就労制限の有無”という項目があります。ここに就労不可と書かれていたり、雇用する職務と異なった記載があったりする場合には雇用しないようにすることが大切です。一部の就労制限がある場合の“就労制限の有無”には“在留資格に基づく就労活動のみ可”“指定書記載機関での在留資格に基づく就労活動のみ可”“指定書により指定された就労活動のみ可”のいずれかが記載されています。

 

 

| 不法就労を減らすための新たな政策

 

読売新聞によりますと、外国人を雇用したり退職したりした時にハローワークに提出する書類の中に“在留カード番号”を記載する欄が増えるそうです。2019年度中には運用できるようにするようですので、法務省や厚労省の発表にはご注意ください。

2019年4月から“特定技能”という在留資格が新たに作られ、5年間で34万人の外国人雇用者を増やすことになっています。不法就労者は今までよりも大幅に増えると予想されていて、それを防ぐための在留カード番号の届出義務化が行われます。

もともと厚労省は在留カード番号の提出に消極的でしたが、2019年1月に発覚した大規模な偽造カード製造拠点を摘発した事件をきっかけに、法務省の持っているデータとの突合せに協力することになったそうです。在留カードに関連して警察庁が検挙した件数は、2013年は100件程度だったのに対して、2018年は500件を超える勢いです。偽造された在留カードを見つけるためにも法務省の有するデータとの突合せは効率的なのかもしれませんね。

実際の届出様式はいつ変更になるか分かりませんが、厚生労働省は審議会に諮ったうえで届出様式を規定した省令を変更するそうです。早ければ夏ごろには変わるかもしれません。

 

 

| まとめ

 

1 不法就労の外国人が増加傾向!

2 偽造された在留カードに関係する検挙件数は5年で5倍!

3 外国人の雇用に関する届出には在留カード番号の記載が必須に!



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相続法の改正で何が変わる?

| 大きな改正は2~3か所

 

この記事の題名に相続法と書きましたが、主に民法の相続のところです。第1篇から順に総則、物権、債権、親族ときて相続が第5編になります。この相続部分と関連法の改正が2018年にありまして、法律の施行が2019年1月から順次行われることになりました。

改正で何が変わったのでしょうか?法務省のサイトで改正点をざっと眺めてみますと細かいところが多いように思います。私が個人的に大きな改正点だと思うところは2~3点だけでした。

 

 

| 配偶者居住権の新設

 

被相続人が亡くなって相続が開始すると、今まで住んでいた土地や建物も相続の対象になる場合が多いです。そうすると相続財産は相続人で共有しますから、勝手に住むわけにはいきません。家賃相当額の使用料を支払わないといけない場合もあります。亡くなった方の配偶者の方が住んでいると面倒くさいことになります。

そこで、配偶者居住権という権利を作って、配偶者は終身または一定期間無償で住めるようになります。もちろん条件はあります。具体的には、相続人が遺産分割をする場合に配偶者が配偶者居住権を取得して、配偶者以外の相続人は負担付所有権を取得するという制度です。

この制度のいいところは、今まで老夫婦で暮らしてきた家にそのまま住めるだけでなく、制限のある居住権を取得することで土地や建物の評価額が低くなって預貯金などの現金をより多く相続できるようになったことです。老後の不安も減って安心して暮らせるようになりました。

 

 

| 自筆証書遺言について

 

遺言の作成の多くは自筆証書遺言か公正証書遺言だと思います。自筆証書遺言は安価に作成できる反面、厳格なルールに違反すると無効になってしまいます。反対に公正証書遺言はお金がかかる代わりに間違いのない遺言を作ることができます。

自筆証書遺言では全て自筆で書く必要がありましたが、今回の改正で財産目録はパソコンで作成することができるようになりました。さらに通帳のコピーもOKです。

さらに、自筆証書遺言は紛失や改ざんなどが怖かったのですが、法務局での保管が可能になります。特に、同居していた相続人と遠隔地に別居していた相続人との間で書き換えや誘導があったような争いや禍根を残すこともありました。そのようなことがないように、第三者である法務局で自筆証書遺言を保管する制度が作られます。

 

 

| その他の改正点

 

その他の改正点としてまして、遺産の分割前に被相続人の預貯金が一部払い戻し(金融機関ごとに上限150万円)できるようになったり、被相続人の介護などをした相続人ではない親族にも金銭の請求ができるようになったり、配偶者に短期の居住権を付与することができるようになったり、20年以上の夫婦間限定で自宅の生前贈与が遺産の先渡しにならないように扱うことができるようになったりと色々あります。

施行日は内容によって様々です。自筆証書遺言の財産目録については2019年1月13日に施行されました。多くは2019年7月13日までに施行される予定ですが、配偶者居住権や遺言の補完制度については2020年7月13日までに施行されることになっています。施行日が決まると法務省のサイトに載せられますので、気になる方は覗いてみてはいかがでしょうか。

 

 

| まとめ

 

1 改正相続法の施行がスタート!

2 配偶者居住権を新設!

3 自筆証書遺言の財産目録がPCで作成可能に!



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