| 事実証明ってなに?
行政書士の独占業務の一つに“事実証明に関する書類の作成”があります。“行政書士の犯罪”でも簡単にお話をさせていただきました。
この“事実証明に関する書類”には“株主総会議事録”、“定款”、“決算書”、“交通事故調査書”、“遺産分割協議書”などがあります。最高裁判所は私文書偽造の事件で、「事実証明に関する文書」について「われわれの実社会生活に交渉を有する事項を証明するに足りる文書をいう」と定義しています(大九・一二・二四大、刑録二六-九三八)。行政書士はこの事実証明に関する書類の作成をするのであって、事実証明自体をしているのではありません。
この区別は分かりにくいですが、例えば決算書は経営成績という事実を証明する書類です。行政書士はこれを作成することができますが、決算書が正しいこと自体を行政書士が証明するのではありません。決算書は財務諸表ですから証明することができるのは公認会計士です。同じことは会社の定款にも言えます。定款の作成は行政書士ができますが、定款が正しい手続によって作成されたことを証明するのは公証人です。
| 家系図は事実証明?
もう7年近く前になりますが、平成22年の暮れにこんな最高裁判決が出ました。
無資格の被告人が行政書士から職務上請求書を買い取って不正に戸籍謄本を取得し、注文者の家系図を作成し販売しました。
最高裁判所は、この事件での家系図は観賞用・記念用であって事実を証明する文書ではないから、このような家系図の作成は行政書士の独占する業務ではなく無資格者が作成しても行政書士法違反にはならない旨を判示しました。
つまり、観賞用・記念用の家系図はだれでも作れるということです。もちろん行政書士が作ることもできます。しかし、これを作るときに行政書士が職務上請求書を使って戸籍謄本などを取得することはできません。使ってしまうと行政書士法違反で行政処分を受けます。依頼者からの委任状が必要です。
インターネットで検索してみると観賞用の家系図を作成している行政書士は多くいますが、行政書士全体の信用を害することがないよう職務上請求書の不正な使用は絶対にしないでほしいです。
| 職務上請求書ってなに?
ところで、「職務上請求書ってなに?」と疑問に思いますよね?
職務上請求書は、士業が仕事をするために必要な範囲で戸籍謄本や住民票の写しを取得できる申請用紙です。行政書士以外にも弁護士や司法書士も使います。これがあれば“業務に必要な範囲で”(ここが重要です)勝手に戸籍謄本などが取得できるのです。ある意味“特権”ですね。
| 事実証明になる相続関係説明図
このように、観賞用・記念用家系図の作成は行政書士の業務ではありませんので、“業務に必要な範囲で”使う職務上請求書を使ってはいけません。
観賞用・記念用の家系図とは別に、相続関係説明図などのように事実を証明する書類もあります。相続関係説明図は、土地を相続したときに法務局で登記するときに提出する書類の一つにもなっています。言ってしまえば家系図なんですけどね…。観賞用・記念用の家系図とは目的が違います。
この相続関係説明図の作成は行政書士法に規定する行政書士の業務ですので、“業務に必要な範囲で”職務上請求書を使って戸籍謄本などを取得することができます。
| まとめ
1 事実証明に関する書類の作成は行政書士の業務!
2 観賞用の家系図は行政書士の業務ではない!
3 相続関係説明図は行政書士の業務!