毎年、行政書士試験の問題を検討しているのですが、今年は何かとバタバタしておりまだ試験問題すら見ておりませんでした。
合格発表が近くなっているこの時期です。受験生の皆様はワクワクドキドキの時期も過ぎて落ち着いているかと思います。では、令和3年度行政書士試験を見てみたいと思います。今回も引き続き択一問題を見ていきます。
| 択一式 第21問(行政法)
選択式に引き続いて、択一式の問題も掲載しません。行政書士試験の問題は、一般財団法人行政書士試験研究センターのサイトにありますので、気になる方は各自ダウンロードしてください。PDFファイルで約570KB程度のサイズです。
第21問も引き続き国家賠償法の問題です。判例の組み合わせ問題です。規制権限不行使の判例は公害関係が多いですね。
【肢ア】
妥当です。アスベスト関連の判例でいわゆる泉南訴訟(最判H26.10.9)ですね。前提として、国の規制権限はできる限り速やかに、技術の進歩や最新の医学的知見等にあわせて改正すべく、適時にかつ適切に行使されるべきものであるとされています。この医学的知見が確立した昭和33年以降は石綿工場に局所排気装置を設置することを義務付けることが可能になりました。とすれば、そのときにできるだけ速やかに罰則をもって義務付けを行って局所排気装置の普及を図るべきだったと判示しました。
【肢イ】
妥当です。こちらも有名な判例(最判H16.4.27)です。国などによる規制権限の不行使が国家賠償の対象になる場合は、権限を定めた法令の趣旨・目的、権限の性質などに照らして、具体的事情の下で不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠く場合です。本事例では、原因が明らかになり対処法もわかっている段階で、対処が容易にできるにもかかわらず規制権限を行使しなかったことが違法であるとされています。
【肢ウ】
誤りです。宅建業者が不正行為によって取引先に被害を負わせたにもかかわらず、知事が宅建業免許の更新を認めたことが直ちに国家賠償法上の違法になるとは限りません。これは【肢イ】の基準を使って判断されています。つまり、権限を定めた法令の趣旨・目的、権限の性質などに照らして、具体的事情の下で不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠く場合には、国家賠償法上の違法になるとされています。
【肢エ】
誤りです。最判H16.10.15を題材にしています。【肢イ】の基準を用いて、次のように判示しました。
“国が,昭和34年11月末の時点で,多数の水俣病患者が発生し,死亡者も相当数に上っていると認識していたこと,水俣病の原因物質がある種の有機水銀化合物であり,その排出源が特定の工場のアセトアルデヒド製造施設であることを高度のがい然性をもって認識し得る状況にあったこと,同工場の排水に含まれる微量の水銀の定量分析をすることが可能であったことなど判示の事情の下においては,同年12月末までに,水俣病による深刻な健康被害の拡大防止のために,公共用水域の水質の保全に関する法律及び工場排水等の規制に関する法律に基づいて,指定水域の指定,水質基準及び特定施設の定めをし,上記製造施設からの工場排水についての処理方法の改善,同施設の使用の一時停止その他必要な措置を執ることを命ずるなどの規制権限を行使しなかったことは,国家賠償法1条1項の適用上違法となる。”“国又は公共団体の公務員による規制権限の不行使は,その権限を定めた法令の趣旨,目的や,その権限の性質等に照らし,具体的事情の下において,その不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められるときは,その不行使により被害を受けた者との関係において,国家賠償法1条1項の適用上違法となる”
| まとめ
1 規制権限不行使の判例は公害関係が多い!?
2 規制権限不行使の基準を知っておくと便利!
3 規制権限不行使が著しく合理性を欠けば違法!