毎年、行政書士試験の問題を検討しているのですが、今年は何かとバタバタしておりまだ試験問題すら見ておりませんでした。
合格発表が近くなっているこの時期です。受験生の皆様はワクワクドキドキの時期も過ぎて落ち着いているかと思います。では、令和3年度行政書士試験を見てみたいと思います。今回も引き続き択一問題を見ていきます。
| 択一式 第4問(憲法)
選択式に引き続いて、択一式の問題も掲載しません。行政書士試験の問題は、一般財団法人行政書士試験研究センターのサイトにありますので、気になる方は各自ダウンロードしてください。PDFファイルで約570KB程度のサイズです。
第4問から見ていきます。判例問題です。電話傍受、オービス、GPSの捜査手法など刑事訴訟法の知識がないとかなり難しい問題だと思います。刑事訴訟法関連でいうと、所持品検査や採尿についても知っておくといいかもしれません。
【肢1】
誤りです。人格権としての肖像権に関する判例はみなさんご存じだと思います。いわゆる京都府学連事件(最大判S44.12.24)です。この判例では、“警察官による個人の容ぼう等の写真撮影は、現に犯罪が行なわれもしくは行なわれたのち間がないと認められる場合であつて、証拠保全の必要性および緊急性があり、その撮影が一般的に許容される限度をこえない相当な方法をもつて行なわれるときは、撮影される本人の同意がなく、また裁判官の令状がなくても、憲法一三条、三五条に違反しない。”と判示しています。
【肢2】
妥当です。憲法では、住居や所持品については不当に捜索や押収がなされない権利が明記されています(令状主義)。また、ストーカー規制法のように一定の者が一定の範囲内に近寄ることを禁止することも憲法は除外していません。また、肢5のGPS端末の判例でも私的領域への侵害がプライバシー侵害になりうると考えています。
【肢3】
誤りです。電話傍受はプライバシー侵害の虞が強いと言われています。ただ、違法薬物の取引行為のように隠れてコソコソと行う犯罪行為を取り締まる場合には、事前の情報収集が必須です。そこで、平成11年の最高裁判決では“捜査機関が電話の通話内容を通話当事者の同意を得ずに傍受することは、重大な犯罪に係る被疑事件について、罪を犯したと疑うに足りる十分な理由があり、かつ、当該電話により被疑事実に関連する通話の行われる蓋然性があるとともに、他の方法によってはその罪に関する重要かつ必要な証拠を得ることが著しく困難であるなどの事情が存し、犯罪の捜査上真にやむを得ないと認められる場合に、対象の特定に資する適切な記載がある検証許可状によって実施することが許される”と判示しました。
【肢4】
誤りです。オービスの判例ですね。先ほどの電話傍受の判例と同じように、現在性、緊急性、証拠保全の必要性、方法を考慮すると、同乗者の容貌を撮影することになったとしても仕方がないとされています。刑事訴訟法の知識があれば簡単ですが、そうでなければ判例を知らなければ解けないと思います。最高裁は“速度違反車両の自動撮影を行う自動速度監視装置(オービス)による運転者の容ぼうの写真撮影は、現に犯罪が行われている場合になされ、犯罪の性質、態様からいつて緊急に証拠保全をする必要性があり、その方法も一般的に許容される限度を超えない相当なものであるから、憲法13条に違反せず、また、右写真撮影の際、運転者の近くにいるため除外できない状況にある同乗者の容ぼうを撮影することになっても、憲法13条、21条に違反しない”と判示しました(最判S61.2.14)。
【肢5】
誤りです。GPS端末をこっそりと車に付ける行為が人権を侵害しないかが問題になったことが最近ありました。平成29年の最高裁判決です。刑事事件です。さらに刑事訴訟法関連の判例です。行政書士受験生にとってかなり難しい判例だと思います。最高裁は“GPS捜査は,対象車両の時々刻々の位置情報を検索し,把握すべく行われるものであるが,その性質上,公道上のもののみならず,個人のプライバシーが強く保護されるべき場所や空間に関わるものも含めて,対象車両及びその使用者の所在と移動状況を逐一把握することを可能にする。このような捜査手法は,個人の行動を継続的,網羅的に把握することを必然的に伴うから,個人のプライバシーを侵害し得るものであり,また,そのような侵害を可能とする機器を個人の所持品に秘かに装着することによって行う点において,公道上の所在を肉眼で把握したりカメラで撮影したりするような手法とは異なり,公権力による私的領域への侵入を伴うものというべきである。“と判示しています。ちなみに、GPSの装着は強制捜査であるとしつつも、裁判官が令状を発布することは刑事訴訟法違反になる可能性があるとしています。現段階ではGPSの装着による操作はできないと思われます。
| まとめ
1 京都府学連事件などの有名判例は必須!
2 刑事事件の判例の理解は刑事訴訟法の知識が必要!?
3 刑事事件の所持品検査についても知っておいた方がいいかも!?