2020年の宅地建物取引士試験は、新型コロナウイルス感染症への対応のため例年と異なる試験形態になってしまいました。都市圏では受験会場が確保できなかったため、10月の試験を受験できない受験生がいます。2020年は10月と12月の2回、試験が行われることになりました。
前回から引き続き2020年10月試験の問題を振り返ってみたいと思います。まずは民法から始めてまいります。
| 2020年10月試験 民法
1 問9 正解肢3
売買と負担付贈与に関する問題です。負担付贈与は難しいと思います。
肢1 手付解除
解約手付を交付した場合の契約解除時期についての問題です。解約手付を交付した場合は、買主は手付を放棄して契約の解除をすることができますし、売主は倍額を現実に提供して契約の解除をすることができます(民法557条1項)。ただし、解除ができるのは相手方が履行に着手するまでの間です(民法557条ただし書)。本肢の場合は、買主が代金支払いの準備をして売主に履行を催告していますので履行に着手しています。ですから、売主は手付金額の倍額を支払っても契約を解除することができません。
肢2 書面によらない贈与の解除
書面によらない贈与の場合、各当事者は解除をすることができます(民法550条本文)。ただし、履行の終わった部分は契約の解除ができません(民法550条ただし書)。本肢の場合、契約を解除するにしても建物の引渡しが終わっていれば所有権移転登記が終わっていなくとも返還請求はできませんし、所有権移転登記が終わっていれば建物の引渡しが終わっていなくても返還請求はできません。
肢3 負担付贈与の売主の担保責任
負担付贈与の贈与者は、負担の限度において売主と同じ担保責任を負います(民法551条2項)。
肢4 債務不履行による解除と負担の不履行による解除
買主の債務不履行によって売主は解除権を有する場合があります(民法541条、542条)。また、負担付贈与は、性質に反しない限り、双務契約に関する規定を準用します(民法553条)。ですから、負担付贈与の受贈者が負担を履行しない場合には、売買契約と同じように解除権が発生する場合があります。
2 問10 正解肢2
所有権の時効に関する問題です。
肢1 前主の占有の承継
取得時効が成立するためには、平穏・公然・善意・無過失の場合には10年の占有(民法162条2項)、平穏・公然の場合には20年の占有(民法162条1項)が必要です。前主の占有を承継した場合には、自らの占有のみを主張してもよいし前主の占有も併せて主張してもかまいません(民法187条1項)。ただし、前主の占有を併せて主張する場合には前主の悪意や過失も承継します(民法187条2項)。本肢では、BとCの占有期間は併せて20年になりますので、所有権の取得時効を主張することができます。
肢2 善意から悪意への転換
占有開始の時に善意・無過失であれば、その後に事情を知って悪意に転じたとしても占有期間に違いはありません(大判明44.4.7)。本肢では、占有の開始時に善意である買主は10年の占有の後に時効取得を主張することができます。
肢3 前主の善意の承継
肢1で書いたとおり、後主は前主の占有を併せて主張することができます(民法187条1項)。その場合、前主の占有を併せて主張するときは前主の占有開始時点で善意・無過失か否かを判断するとされています(最判昭53.3.6)。
肢4 所有権の消滅時効
所有権は消滅時効にかかりません(民法166条1項、2項)。
| まとめ
1 負担付贈与は難問!
2 時効は判例が大切!
3 占有の承継と善意・悪意の承継には要注意!