2020年に入ってから行政書士の不祥事のニュースは目にしなくなってきていました。ところが、6月に入ってから2件の業務上横領事件のニュースを目にしました。行政書士による現金の着服が“業務上”横領になるのかを含めて、ご紹介したいと思います。
| 大分県宇佐市で元行政書士が逮捕
大分県宇佐市内で任意後見人が高齢女性(98)の口座から700万円を自己の口座へ送金して着服したとのニュースがありました。
任意後見になりますと、契約のあった後見人以外に裁判所が後見監督人を選任します。後見監督人は任意後見人がきちんと仕事をしているのかを監視する役目を担っています。
今回の事件は、後見監督人が私的に金が使われていると警察に相談して発覚しました。警察の捜査の結果、任意後見人の元行政書士が高齢女性の口座から700万円を着服したとの容疑で逮捕されました。
本来、被後見人の財産を守るために金銭管理を行うはずの任意後見人が、財産を着服するというとんでもない事件です。しかも、任意後見人は元行政書士で法律に携わるプロでした。おそらく余罪がありそうです。プロの任意後見人であっても疑ってかからなければいけない世の中になってしまいました。
| 北海道函館市で行政書士が逮捕
北海道函館市の行政書士が女性(70)の口座から現金を引き出して着服したというニュースがありました。
行政書士は財産の管理を委任されていたにもかかわらず、委託契約書の作成をしておらず、不審に思った親族が女性の口座を調べたところ、覚えのない金額が出金されていたために警察に相談したそうです。警察の捜査の結果、女性の口座から70万円を着服したとの容疑で逮捕されました。
助成の口座からは2年余りの期間で5,000万円以上が引き出されていたそうです。それだけの金額が預金されていたことにも驚きますが、それだけの金額が出金されるまで気が付かなかったということにも驚きます。
| 業務上横領と横領は何が違うの?
他人のモノを預かっている間に自分のモノにすると“横領罪”になります。窃盗罪との大きな違いは、誰がモノを持っていたのかという点です。他人が持っているモノを自分のものにすると窃盗罪、自分が持っている他人のモノを自分のものにすると横領罪です。
たとえば、友人の家にあった時計を無断で持ち帰ってオークションで売却した場合は窃盗罪、友人から借りた時計を無断でオークションで売却した場合は横領罪になります。
今回の2つの事件でも、金銭の管理のために通帳や印鑑などの他人のモノを預かっている間に悪用してお金を自分のものにしています。このような場合は、窃盗罪ではなく横領罪になります。
では、業務上横領罪と横領罪は何が違うのでしょうか。
業務上横領罪には“業務上”という文言がついています。文字通り仕事として他人のモノを預かっている間に自分のモノにした場合には“業務上”横領罪になります。
このように、犯人が仕事として預かっているというような犯人の属性に関することは“身分”と言われていて、“身分”を持つ人しか置かせない犯罪を“身分犯”と言います。
たとえば、企業の集金を担当する者が集金したお金を着服した場合には業務上横領罪になります。
今回の2つの事件では、任意後見人として通帳や印鑑などを預かっていたり、契約に基づいて通帳や印鑑などを預かったりしていたのですから、仕事として預かったと言えます。ですから、業務上横領罪に問われることになりました。
横領罪には、単純な横領罪、仕事でした業務上横領罪の他に、遺失物等横領罪もあります。遺失物等横領罪は、他人が失くしたモノ、難しく言えば占有を離脱したモノを自分のモノにした場合に問われます。たとえば、道に落ちている財布を拾って警察に届けずに中に入っていた現金を自分のモノにした場合です。
| まとめ
1 大分県と北海道で行政書士の業務上横領事件!
2 通帳や印鑑を預けるときには信用できるかを吟味!
3 プロの任意後見人でも安易に信用できない!?