行政書士は交通事故の被害者から自賠責保険の申請手続きや書類作成業務を請けることができます。行政書士法にある“権利義務又は事実証明に関する書類”の作成に該当します。ただこの業務には注意点があります。
今回は、行政書士による事故の保険金請求手続きについて書きたいと思います。
| 争いのない書類の作成は行政書士の業務
行政書士は争いのない事案について、権利義務に関する書類を作成することができます。事故の保険金請求手続きについても、争いがない事案については手続きを代行することができます。
ここでのポイントは“争いがない”ということです。交通事故の保険金請求手続きでは保険会社との交渉が含まれる場合があります。行政書士のできることは、依頼者の意見を保険会社に伝え、保険会社の意見を依頼者に伝えることです。交渉をすることはできません。
保険会社との交渉については裁判例(大阪高裁平26.6.12)があります。この裁判例の内容をご紹介します。
| 依頼者と保険会社に争いあり?
裁判で認定された事実は次のとおりです。
行政書士は交通事故の被害者から保険金請求書類とその付随業務を受任しました。契約書には、事件が訴訟等に移行した場合には依頼者の希望により司法書士や弁護士を紹介する旨も記載されていました。訴訟になれば“争いがある”ことは明らかですので、行政書士は事件から手を引くことを明確にしています。
判決ではいくつかを述べていますが、ポイントになるところだけを書きたいと思います。
1 権利義務又は事実証明に関する書類への該当性
行政書士は、被害者が加害者のとの間で将来的に法的な争いが発生することがほぼ不可避であると認識していました。それにもかかわらず、整形外科宛ての上申書や保険会社宛ての保険金請求書類などを作成して提出しています。
これらの書類には被害者に有利な等級認定に必要な事実や法的判断を含む意見が記載されています。とすると、これらの書類は弁護士法72条で禁止されている法律事務を取り扱う中で作成されたものだと認定されました。つまり、行政書士法の“権利義務又は事実証明に関する書類”ではないという判断です。
2 弁護士法72条の禁止行為について
将来的に法的な争いが生じることが予測される状況で、行政書士が行った書類の作成や助言は、行政書士の業務にあたらず、弁護士法72条で禁止されている法律事務にあたると判断されました。最高裁平22.7.20の判決を踏襲した判断とされています。
このような行政書士の行為は、弁護士法72条ただし書の例外事由にも該当しないため、行政書士が業務として取り扱うことが制限されているとされました。
| 行政書士がすべき対応
弁護士法72条は“報酬を得る目的で”法律事務を取り扱うことを禁止しています。では、争いになりそうな状況であれば、報酬を得なければ弁護士法72条に違反しないのではないかと思われます。
しかし、大阪高裁平26.6.12の裁判例では、書類の作成自体が法律事務に該当し、行政書士の業務全体が弁護士法72条に違反するとしています。このことからすると、依頼を受けた業務内容の中に争いが生じると予測される事実がある場合には、行政書士は依頼を受けることができないことになります。
手続を進行していく中で争いになることが予測できるようになった場合には、その時点で業務を中断し司法書士や弁護士を紹介する必要があります。この場合には、すでに終わっている業務については報酬を請求できると思われます。業務の途中で争いの可能性が判明した場合の裁判例もあるかもしれませんね。
| まとめ
1 争いのない事案は行政書士の業務!
2 争い発生がほぼ確実な場合には弁護士法72条違反!
3 弁護士法72条に違反していない業務は報酬請求可能?