ハラスメントへの対策が法的義務に!

昨今、社会問題になっている数々のハラスメント。パワハラ、セクハラを筆頭に、モラルハラスメント、マタニティハラスメント、スメルハラスメント、カスタマーハラスメント、アルコールハラスメント、終われハラスメントなど色々なハラスメントが話題になっています。

セクハラは以前から男女雇用機会均等法に規定されていましたが、2020年4月からパワハラへの対策も法的義務になる可能性があります。

今回は、様々なハラスメントの法的義務について書きたいと思います。

 

 

| 男女雇用機会均等法のセクハラ・マタハラ対策

 

男女雇用機会均等法では、性的な言動への労働者の対応によって労働条件で不利益を受けたり、性的な言動で就業環境が害されたりすることのないように対応できる体制を築くことを事業主に課しています。

 

雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律 第11条1項

事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない

 

これは事業主に課されている義務で、労働者同士のセクハラを直接規制するものではありません。2019年5月に成立した女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等の一部を改正する法律(2020年6月1日施行、2022年3月31日まで経過措置)でも、セクハラの防止対策の強化等の措置を講ずるものであって、労働者同士のセクハラを直接規制するものではないようです。

マタハラについては、男女雇用機会均等法の第11条の2に規定されています。

 

雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律 第11条の2

事業主は、職場において行われるその雇用する女性労働者に対する当該女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、労働基準法第六十五条第一項の規定による休業を請求し、又は同項若しくは同条第二項の規定による休業をしたことその他の妊娠又は出産に関する事由であつて厚生労働省令で定めるものに関する言動により当該女性労働者の就業環境が害されることのないよう、当該女性労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない

 

こちらもセクハラと同じように、労働者の言動によって女性労働者の就業環境が解されることの内容に対応できる体制を築くことを事業者に課しています。

また、育児・介護休業法の第10条には、育児休業の申請を理由として解雇や不利益な取り扱いを禁止しています。

 

育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律 第10条

事業主は、労働者が育児休業申出をし、又は育児休業をしたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない

 

いずれにしても、事業主に課される義務で、労働者間の言動に関するものではありません。

 

 

| 労働施策総合推進法のパワハラ対策

 

労働施策総合推進法は、“労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律”という長い名前を省略しています。元々は雇用対策法という名前でしたがこの名前に変わりました。

労働施策総合推進法では、第4条の“国の施策”という条文に第14号が加えられました。第4条は国への施策の義務付けで、現在では第1号~第13号までが規定されています。ここに第14号が追加されました。

 

労働施策総合推進法 第4条第14号

職場における労働者の就業環境を害する言動に起因する問題の解決を促進するために必要な施策を充実すること。

 

国は労働者の職業環境を害する言動、いわゆるハラスメントの問題解決の施策を充実させることになります。

では、事業主の取るべき措置はどうでしょうか。改正法では、新たに第8章を作って、30条の2第1項でパワハラの定義を書いています。

 

労働施策総合推進法 第30条の2 第1項

事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。

 

一見すると定義なんてないように思えますが、よく読んでみるとパワハラの定義が隠されています。

パワハラは、“職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの”とされています。ここには3つのキーワードがあります。

1 職場において行われること

2 優越的な関係を背景とした言動であること

3 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものであること

この3つのすべてを満たしたときに“パワハラ”とされることになります。“職場”にはどこまで含まれるか、“優越的な関係”とは上司・部下の関係だけなのか先輩・後輩の関係も含まれるのか、“業務上必要かつ相当な範囲”とはどの範囲なのかなどよく分からずあいまいですが、法律の規定ですからこの程度でしかたがないのでしょう。

30条の2第2項には不利益な取り扱いの禁止が規定されています。

 

労働施策総合推進法 第30条の2 第2項

事業主は、労働者が前項の相談を行つたこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない

 

セクハラやマタハラであったのと同じ内容の条文です。相談や相談への対応に協力したことで不利益な取り扱いを受けることのないように規定されています。

30条の3では、国や事業者だけでなく労働者の責務についても規定されました。セクハラやマタハラから一歩進んだ規定になっています。

 

労働施策総合推進法 第30条の3

1 国は、労働者の就業環境を害する前条第一項に規定する言動を行つてはならないことその他当該言動に起因する問題(以下この条において「優越的言動問題」という。)に対する事業主その他国民一般の関心と理解を深めるため、広報活動、啓発活動その他の措置を講ずるように努めなければならない

2 事業主は、優越的言動問題に対するその雇用する労働者の関心と理解を深めるとともに、当該労働者が他の労働者に対する言動に必要な注意を払うよう、研修の実施その他の必要な配慮をするほか、国の講ずる前項の措置に協力するように努めなければならない

3 事業主(その者が法人である場合にあつては、その役員)、自らも、優越的言動問題に対する関心と理解を深め、労働者に対する言動に必要な注意を払うように努めなければならない

4 労働者は、優越的言動問題に対する関心と理解を深め、他の労働者に対する言動に必要な注意を払うとともに、事業主の講ずる前条第一項の措置に協力するように努めなければならない

 

第1項は国の責務、第2項と第3項は事業主の責務になっています。そして、第4項が労働者の責務です。他の労働者に対する言動に必要な注意を払うこと、事業主の講ずる措置に協力することが努力義務になっています。

そうです、第30条の3に規定された責務は全て“努力義務”です。努力義務ですから、違反しても罰則はありません。企業内での努力だけではなかなか解決できないでしょうから、あまり実効性はありません。ただ、この規定に基づいて行政指導や勧告を行うことはできるでしょうから、ある程度の圧力をかけることはできるのではないでしょうか。

 

 

| まとめ

 

1 セクハラ・マタハラへの対応が改正!

2 パワハラへの対応が新たに儲けられました!

3 肝心の労働者間のセクハラは努力義務!



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