2019年の行政書士試験は11月10日(日)に行われます。2019年度の試験の難易度は分かりませんが、出題ミスがなければ10%前後になるのではないでしょうか。
行政書士試験での一番のポイントは“記述式でどれだけ安定して得点ができるか”ではないでしょうか。受験生の皆さんは過去問や問題集で演習をしていることと思います。今回のシリーズは記述式試験(過去問)の解答への考え方を書きます。あくまでも私アシュラとして…ですので、ご了承ください。
過去問(2013年度以降)は行政書士試験研究センターのサイトにあります。
| 民法 - 詐害行為取消権
問題 (2014年度 第45問)
Aは複数の債権者から債務を負っていたところ、債権者の一人で懇意にしているBと相談の上、Bに優先的な満足を得させる意図で、A所有の唯一の財産である甲土地を、代物弁済としてBに譲渡した。その後、Bは同土地を、上記事情を知らないCに時価で売却し、順次、移転登記がなされた。この場合において、Aの他の債権者Xは、自己の債権を保全するために、どのような権利に基づき、誰を相手として、どのような対応をとればよいか。判例の立場を踏まえて40字程度で記述しなさい。
問題文では“どのような権利に基づき”“誰を相手として”“どのような対応を取ればよいか”を問うています。ですから、(1)どのような権利に基づいて、(2)誰に対して、(3)どのような対応を取るのかを書けなければ点数になりません。
状況を図解します。
このような状況で、債権者Xはどうすればよいのでしょうか。土地は善意の第三者に譲渡されていますし、その他にめぼしい財産はありません。
ただ、債務者Aが債権者Bと相談の上で土地甲で代物弁済をしたのは“Bに優先的な満足を得させる意図”だったと書かれています。他の債権者を害する意図がありますね。ここにつけ込むすきがありそうです。
債権者Xは債務者Aと債権者Bとの間での代物弁済を取り消して、土地甲を債務者Aの元に戻したいと考えます。たとえ土地が戻ってこなくても、債権者Bからお金を回収できればOKです。
このような時に使える制度が“詐害行為取消権”です。要件は次のとおりです。
1 被保全債権が金銭債権
2 被保全債権が詐害行為以前に成立
3 債務者の債権者を害する行為
4 債務者の無資力
5 取消対象が財産権であること
6 債務者と受益者又は転得者が悪意であること
問題文の条件をあてはめていきます。
債権者Xの有する債権の種類は問題文に書かれていませんが、金銭債務であるとします。また、債権者Xの債権は詐害行為より前に成立しています。よって、要件1と2は満たします。
次に、債務者Aは債権者Bに土地甲を代物弁済していますので、要件3を満たします。債務者Aには他の財産はありませんので、土地甲を手放して無資力になりました。また、代物弁済は弁済の一種ですから財産権です。よって、要件3、4、5を満たします。
さらに、第三者C(転得者)は善意ですが、債務者Aと債権者B(受益者)は悪意です。よって、要件6を満たします。
以上から、債権者Xは詐害行為取消権を行使して代物弁済を取り消すことができそうです。
解答例 “詐害行為取消権に基づき”
では、誰を相手にすればいいのでしょうか。考えられるのは、債務者A、債権者B、第三者Cの三人です。
第三者Cは善意ですので、債権者Bと第三者Cとの土地甲の売買契約は有効です。債務者Aとは全く関係がなく、何も知らなかった第三者Cの権利を害することはできません。
また、判例によると、債務者Aを相手に詐害行為取消権を行使することはできないことになっています。そうしますと、債権者Bを相手にするのが一番です。
解答例 “Bを相手として”
債務者Aと債権者Bとの代物弁済を取り消しても土地甲は債務者Aのもとに戻ってきません。善意の第三者Cが取得してしまっているからです。
代物弁済が取り消されると、債権者Bは債務者Aの財産を元に戻さなければいけませんが、土地は戻ってきませんのでお金で解決するしかありません。土地がお金に変わってしまいますが、このお金を債務者Aのもとに戻そうと思っても受け取らない可能性もあります。
そこで、金銭の場合には詐害行為取消権を行使した債権者が金銭を受け取ることができます。
さらに、債権者代位権と違って、詐害行為取消権は必ず裁判所に訴えなければいけません。この点も注意が必要です。
“詐害行為取消権に基づき、Bを相手として裁判所にAB間の契約の取消及び価格賠償を求める。”(43字)
| まとめ
1 債権者を害する行為があれば“詐害行為取消権”を検討!
2 詐害行為取消権の要件は丸暗記!
3 金銭の場合の処理と提訴が必要なことは要注意!