毎年、行政書士試験の問題を検討しているのですが、今年は何かとバタバタしておりまだ試験問題すら見ておりませんでした。
合格発表が近くなっているこの時期です。受験生の皆様はワクワクドキドキの時期も過ぎて落ち着いているかと思います。では、令和3年度行政書士試験を見てみたいと思います。今回も引き続き択一問題を見ていきます。
| 択一式 第9問(行政法)
選択式に引き続いて、択一式の問題も掲載しません。行政書士試験の問題は、一般財団法人行政書士試験研究センターのサイトにありますので、気になる方は各自ダウンロードしてください。PDFファイルで約570KB程度のサイズです。
第9問から行政法の問題です。行政裁量について最高裁判所の見解を問うています。組み合わせ問題です。
裁量があるものについて、裁判所が違法と判断するのは裁量権の逸脱または濫用があった場合です。裁量権の逸脱・濫用があったかどうかは、裁量権行使の判断要素の選択や判断過程に合理性を欠くところがないかを検討し、その判断が、重要な事実の基礎を欠くか、又は社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められるかどうかで判断されます。
これを前提に肢を見ていきましょう。
【肢ア】
妥当です。教科書は他の書籍と異なる特殊性があります。それは、記述内容が学問的に正確・中立・公正であること、教育に適切であること、児童・生徒の心身の発達段階に適応していることなどが考慮されることです。そのため、文部科学大臣に合理的な裁量があります。
【肢イ】
誤りです。行政庁が懲戒処分をする場合には、次の段階があるとされています。
(1)事実認定
(2)要件認定
(3)手続の選択
(4)行為の選択
(5)時の選択
この5つの段階のうち、(2)要件認定に裁量を認めるのが要件裁量説、(4)行為の選択に裁量を認めるのが効果裁量説と言われています。この点、事実は1つですから(1)事実認定に裁量があるとするのはおかしなことです。ですから、裁判所が懲戒権者の事実認定に拘束されるとするのは誤りです。
【肢ウ】
妥当です。肢イのとおり、事実認定に裁量を認めるとするとおかしなことになりますから、水俣病の認定においてもその事実認定に行政庁の裁量はありません。
【肢エ】
誤りです。最低限度の生活の設定に専門的・技術的な見地が必要だとすると、専門家である厚生労働大臣に裁量がないと妥当な結論を導き出せません。
【肢オ】
誤りです。学校施設は教育目的の施設ですから、一般的な公民館や道路・広場などとはその目的が異なります。教育目的以外での使用を許可するかどうかは、目的外使用の目的や態様などを総合的に考慮して判断できるとされています。ですから、支障がなければ許可をしなければいけないというものではありません。
| まとめ
1 裁量の有無と裁量の逸脱・濫用は別問題!
2 事実認定には裁量が認められない!
3 教科書や学校施設は特殊なので要注意!