少し古い判決ですが、2011年12月20日に最高裁判所が家系図の作成についての判断をしました。行政書士法違反で起訴された方の無罪を言い渡した判決です。
今回は、前回に引き続き家系図と行政書士の業務について書きたいと思います。
| 家系図の作成と職務上請求書
行政書士が業務を行う際に戸籍や住民票の取得が必要になったとき、方法は2つあります。
1 依頼者から委任状をもらって交付を請求する
2 職務上請求書を使って交付を請求する
基本的には委任状を使って仕事をされている行政書士が多いかと思います。当事務所でも可能であれば委任状をいただいて業務を行っています。
ただ、委任状ではなかなか難しい場合もあります。たとえば、兄弟姉妹の相続であったり、代襲相続が発生していたりする場合です。
このような場合に委任状を使って戸籍を集まようとすると、役所から次のような書類を提出するように指示されます。
1 亡くなった方と請求者(依頼人)との関係を証明する戸籍
2 亡くなった方と請求される方(取りたい戸籍の方)との関係を証明する戸籍
3 請求者(依頼人)と請求される方(取りたい戸籍の方)との関係を証明する戸籍
この3点の提出を要求されます。
たとえば、兄弟の相続で代襲相続が発生している場合を考えています。必要な戸籍は次のものになります。
1 亡くなった方の親の戸籍
この戸籍で亡くなった方と請求者(依頼者)が兄弟であることを証明します。また、亡くなった方のご両親がすでに亡くなられていることを証明します。
2 亡くなった方の(生まれてから亡くなるまでのすべての)戸籍
この戸籍で亡くなった方に配偶者やお子さんがいないことを証明します。お子さんがいないことの証明に使いますので、出生から死亡までの連続したすべての戸籍が必要になります。亡くなった方に配偶者やお子さんがいると兄弟姉妹は相続人にはなりません。
3 亡くなった方のご兄弟の戸籍
代襲相続で甥や姪が相続人になっていますので、甥や姪が、亡くなった方や依頼者の兄弟姉妹のお子さんであることを証明するために使用します。甥や姪がご結婚されていて新戸籍が編成されている場合には、甥や姪個人の戸籍も必要です。
これだけの書類を郵送で送ろうとすると、相続人全員分ですから手間と金銭の相当な負担になります。そこで、職務上請求書を使って交付請求をすることになります。
| 観賞用家系図の作成のために職務上請求書を使える?
遺産分割協議のために相続関係説明図を作成する場合には、上のように職務上請求書を使うことができます。しかし、観賞用家系図の作成の場合はどうでしょうか。
職務上請求書を使用する場面は業務で必要な範囲に限られます。以前にも紹介しましたが、
行政書士が職務上請求書を使う場合のルールがあります。“職務上請求書の適正な使用及び取扱いに関する規則”です。
第5条(使用の制限)
行政書士又は行政書士法人は、職務上請求書を、その職務上必要な請求に限り使用できるものとし、これ以外の請求や、身元調査等、人権侵害のおそれがある使用は、これを行ってはならない。
2 以下省略
身元調査などで職務上請求書を使用することはできません。行政書士が身元調査を業として行っても違法ではありません。しかし、行政書士法に独占業務や非独占業務として記載されていない業務に職務上請求書を使用することはできないと思われます。特に、行政書士法人の場合には、登記に記載される“目的”が厳しく限定されていますので、目的に載っていない身元調査を業務にすることができません。
そうだとすると、観賞用家系図の作成業務は行政書士の独占業務や非独占業務として行政書士法に記載されていない以上、観賞用家系図を作成するために職務上請求書を使用することができないと思われます。行政書士としての権限を利用できないとなると、観賞用家系図の作成を主たる業務とする行政書士は少ないのではないでしょうか。
| まとめ
1 職務上必要であれば職務上請求書が使える!
2 委任状をもらって戸籍や住民票を取得することも!
3 観賞用家系図の作成業務では職務上請求書を使えない!?