近年は高齢化の影響で独り暮らしをされている高齢者が多くいらっしゃいます。当事務所へご相談に来られる方は一人暮らしの高齢者の方が多いです。お話を伺ってみると、色々な不安があるようです。
今回も前回に引き続き高齢者のお一人暮らしの不安への対策を書きたいと思います。
| 高齢者の不安やリスク
高齢者の不安やリスクについては、以前の記事“高齢者の一人暮らし ~不安と対策~ その1”に書きました。もう一度ざっくりとまとめたいと思います。
1 倒れたり病気になったりしたときの不安
孤独死につながる可能性があります。不安に思っている高齢者が多いと思います。
2 親族と疎遠で普段から頼れる人がいない
孤独死とも関係しますが、認知症などの症状の進行するリスクもあります。また、事件の被害者になったりするリスクや自然災害時の避難ができないリスクも高まります。
3 亡くなったときに後始末をしてくれる人がいない
親族を頼れない場合にどのように準備をしておけばいいのか分からない方が多いです。国や市町村の情報発信だけでなく、我々士業の情報発信が甘いのだと思います。
4 遺産の分配が不安
疎遠な親族に遺産を渡したくない、お世話になった人に遺産を分けたいなど相続財産の処分に不安を抱えていらっしゃる方が多いです。
| 不安やリスクへの対策
1人暮らしの高齢者の不安やリスクへの対策はいくつかあります。上に挙げた4つの不安やリスクに対する準備には次のようなものがあります。前回の記事“高齢者の一人暮らし ~不安と対策~ その4”の続きです。
今回は遺産の分配について書きたいと思います。主に遺言の種類や注意点になります。
1 遺言の種類
遺言にはいろいろな種類があります。一番身近な遺言は“自筆証書遺言”です。その他にも緊急時などに行う遺言などもあります。
(1)特別方式
・危急時遺言(一般危急時遺言、難船危急時遺言)
・隔絶地遺言(一般隔離者遺言、船舶隔絶地遺言)
(2)普通方式
・自筆証書遺言
・秘密証書遺言
・公正証書遺言
特別方式による遺言は前々から準備をしておくものではありませんので、ここでは省略します。
2 おすすめの遺言
普通方式でのおすすめは公正証書遺言です。時間も手間も費用も掛かりますが、内容に法律的な間違いはありませんし、自筆証書遺言のような裁判所の検認手続が不要ですのでおすすめしています。
公正証書遺言の作成については、公証役場に問い合わせてもいいですし、弁護士、司法書士、行政書士に相談することもできます。
自筆証書遺言を書きたいけれども、どのようにして書けばいいのか分からないという方も弁護士、司法書士、行政書士にご相談ください。有料での遺言書作成指導を行っています。
3 遺言作成時の注意点
公正証書遺言の場合には専門家によるチェックがありますから安心ですが、自筆証書遺言や秘密証書遺言ではチェックがありませんので注意が必要です。遺言はかなり厳格な要式が定まっています。
(1)全文が自署であること
遺言書は全文が自署でなければいけません。代筆はもちろんダメですし、ワープロ打ちもダメです。
(2)日付
日付は正確に記入する必要があります。“吉日”“末日”などの表現はダメです。無効になりますのでご注意ください。西暦でも元号でもOKです。
(3)氏名
かならず自署をします。
(4)押印
認印でOKです。拇印でもよいとする判例があります。
(5)筆記具
鉛筆やシャープペンシルはもちろんダメですし、パイロットのフリクションボールのような消せるボールペンもダメです。
(6)用紙
文字が消える可能性のある感熱紙などはダメです。コピー用紙でもいいですし、便箋でもかまいません。
(7)表現方法
注意点がいくつかあります。
・相続:法定相続人に遺産を譲る場合
・遺贈:法定相続人以外の人に遺産を譲る場合
・相手方の氏名:戸籍のとおりに記載
・続柄と生年月日:相手方の氏名に続けて( )内に記載
・預金、貯金:金融機関名、支店名、口座番号を記載
・不動産:登記簿のとおりに記載
・“その他の財産は◯◯に相続させる(遺贈する)”との文言の記載
・借入額の記載
・遺留分を考慮した記載
・寄与分、特別受益、代襲相続に考慮した記載
・“ただし相続人(受遺者)◯◯が遺言者よりも先に死亡した場合は、●●へ相続させる(遺贈する)”との文言の記載
・遺言執行者の指定
・祭祀承継者の指定
・付言に意図や理由の記載が可
(8)契印
遺言が複数枚になる場合には、それぞれにページ番号を記入して契印(割印)をします。
(9)封印
封筒に入れて封印をします。封筒の紙の切れ目(つなぎ目、糊付け部分の全ての箇所)には、遺言に押したものと同じ印を押します。
(10)同封資料
財産目録を同封します。財産目録は代筆でもOKですし、ワープロ打ちでもOKです。また、不動産登記簿謄本を入れておいたり、預貯金の通帳のコピーを同封したりしてもOKです。ただし、自署ではない財産目録の場合には、全てのページに署名押印をしなければいけません。押印は遺言書や封印と同じ印を使います。
長くなりましたが、遺言について書きました。これだけの準備ができていれば1人暮らしの高齢者はかなり安心できるのではないでしょうか。
遺言の書き方が分からない場合には、弁護士、司法書士、行政書士など専門家に相談をしてください。
| まとめ
1 遺言は公正証書遺言がおすすめ!
2 自筆証書遺言は要式に注意!
3 財産目録は代筆やワープロ打ちもOK!