2020年も11月8日(日)に行政書士試験が行われました。合格発表は2021年1月27日(水)です。合格発表まであと少しですね。受験された方は解答速報でおおよその自己採点ができているかと思います。気が気でない方もいらっしゃるでしょう。
今回から2020年の行政書士試験の問題を振り返ってみたいと思います。記述式から始めて、択一問題、選択式と進める予定です。
| 問題44の解き方・考え方
1 問題の整理
記述式の1問めです。今年も行政法からの出題です。問題文は公表されていますので、ここでは簡単に整理しておきたいと思います。
(1)土地区画整理事業の実施
(2)換地処分
(3)換地の配分は違法として訴えを提起したい
(4)取消訴訟は出訴期間を徒過
以上を前提に考えていきたいと思います。
2 考える順序
問題では、Xが換地のやり直しを求めるために“誰を被告として”“どのような行為を対象とする”“どのような訴訟を提起すべきか”を問うています。この3つが正しく書けなければ点数になりません。
まず、一番わかりやすい対象行為を考えましょう。換地の配分が違法だという主張ですから、換地の配分自体を争うのが一番手っ取り早いですね。
その他に考えられるのは、違法な換地の配分の元になった知事の認可でしょうか。ただ、知事の認可自体は換地の配分の内容に関与しませんので、無理筋でしょう。
とすると、換地の配分自体を争うのがよさそうですね。
次に、被告を考えます。換地の配分を争うのであれば、換地の配分を行った土地区画整理組合を相手取って提訴します。
最後に、どのような訴訟を提起すべきでしょうか。取消訴訟は出訴期間が経過していますから不可能です。行為の違法性を争うには取消訴訟以外に無効確認訴訟があります。
3 訴訟の要件の確認
無効確認訴訟の要件を確認していきます。無効確認訴訟は、処分や裁決の存否または処分の効力の有無の確認を求める訴訟です。行政行為に重大かつ明白な瑕疵があるときには行政行為は無効ですから、その確認を求める訴訟ということですね。
無効確認訴訟には、(1)予防的無効確認訴訟、(2)補充的無効確認訴訟の2つがあります。今回の場合は、すでに換地処分が行われているわけですから(2)補充的無効確認訴訟を提起することになります。
補充的無効確認訴訟の要件は次の2つです。
(1)法律上の利益を有していること
(2)現在の法律関係の確認訴訟では目的達成ができないこと
(1)の法律上の利益については問題なく認められそうです。Xは土地区画整理組合の組合員ですし、土地区画整理事業の区域内の宅地に所有権を有しています。自分の持っている土地が区画整理の対象になっていますから、換地の配分無効確認をする法律上の利益があると思われます。
(2)の目的達成ができないことですが、こちらは知識が必要です。補充的無効確認訴訟は名前のとおり“補充的な”訴訟形態です。つまり、他の訴訟では解決できない場合に用いられる訴訟です。
他の訴訟で解決できる場合というのは2つあります。
(1)実質的当事者訴訟で解決できる場合
(2)民事訴訟の争点訴訟で解決できる場合
実質的当事者訴訟は現在の法律関係の確認を求める訴訟です。たとえば、公務員が懲戒免職処分を受けた場合に、懲戒免職処分は無効で現在も公務員という地位を有していると主張する場合です。
今回の問題では、換地前の状態を良しとするわけではなく換地のやり直しを求めています。ですから、換地の配分が無効で現在も換地前の土地を所有しているという主張をしません。とすると、実質的当事者訴訟では解決できないことになります。
では、民事訴訟の争点訴訟で解決できるでしょうか。ここで思い出して欲しいのが、収用裁決の無効を争う場合です。公共事業で土地を収用された場合に収用裁決が無効だとして争う方法は企業者を被告とする土地所有権の確認訴訟です。この場合には土地の所有権を争うのですから収用裁決の無効自体を表立って争わなくても解決できます。収用裁決の無効は争点の1つとして争えば十分です。収用のやり直しを求めているのではありません。
本問の場合は確かに土地の所有権を争いますが、換地の配分のやり直しを求めていますので換地の配分が無効であると争うことが中心になります。このような場合には争点訴訟では解決ができません。
以上から、Xは法律上の利益を有しており、Xの求める訴えは実質的当事者訴訟でも争点訴訟でも解決できないことになりますので、補充的無効確認訴訟の要件を満たすことになります。
4 解答の作成
2~3で考えたことで解答を作ります。
“Xは、本件組合を被告として、本件換地処分を対象とする無効確認の訴えを提起すべきである。”(43字)
| まとめ
1 記述式は分かりやすいところから考える!
2 訴訟の種類と要件は覚えておかないと解けない!
3 問題文に沿って解答を作る!