行政書士試験の憲法シリーズでは、前回の“行政書士試験の憲法(新しい人権)”で新しい人権について書きました。肖像権や前科などを公開されない利益、私生活をみだりに公開されない権利などがありました。
今回は、幸福追求権とともに総則的な法の下の平等について書きたいと思います。
| 法の下の平等は1つじゃない!?
法の下の平等は、みなさんが中学生の頃に公民の授業で学んでいます。憲法14条1項ですね。法の適用の平等だけでなく法内容の平等まで求められています。
憲法14条
すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
2 華族その他の貴族の制度は、これを認めない。
3 栄誉、勲章その他の栄典の授与は、いかなる特権も伴はない。栄典の授与は、現にこれを有し、又は将来これを受けるものの一代に限り、その効力を有する。
法の下の平等には2つの権利・原則が隠れています。1つは平等権、もう1つは平等原則です。似たような言葉ですが何が違うのでしょうか。
1 平等権
平等権は、個人が国家から差別されない権利、平等に扱われる権利のことです。ですから、個人が主張する平等の概念は“平等権”になります。国家から他人と異なる扱いを受けたときは国家の平等権違反になります。国家から通常の扱いを受けた人が優遇された人と比べて差別されたと主張することもできます。
2 平等原則
平等原則は、国家が個人を差別しない、平等に扱う原則です。国家から他人と異なる扱いを受け、その扱いが一般的な扱いよりも差別された場合のみ平等原則違反を主張できます。条文上では、14条2項や3項のことですね。その他には、普通選挙権(15条3項)、両性の本質的平等(24条)、教育機会の均等(26条)などもあります。
| 平等の2つの概念
法の下の平等には“平等権”と“平等原則”があると書きました。これとは違う分類として“形式的平等”と“実質的平等”という考え方があります。
1 形式的平等
形式的平等は、個人を法的に平等に扱って自由な活動を保障することです。富んだ人と貧しい人、雇用者と被雇用者など異なる状況にある人も同じように扱います。分かりやすい例としては消費税がありますね。どのような人でも8%または10%課税されます。
2 実質的平等
実質的平等は、社会的・経済的弱者に対してより厚く保護をし、一般的な国民と同等の自由と生存を保障することです。社会国家化が進んで認められるようになりました。個人の状況に合わせて待遇を変えるのですね。“結果の平等”とも言われています。たとえば、所得税の累進課税があります。たくさん儲けている人には多くの税金を課し、あまり稼いでいない人には税金を安くするのは実質的平等が現れた一場面です。他には、経済的に就学が困難な人を対象にした給付型の奨学金制度も実質的平等の現れではないでしょうか。
| 3つめの2つの概念
“平等権”と“平等原則”、“形式的平等”と“実質的平等”と書いてきましたが、実はもう1つの平等概念があります。それが“相対的平等”と“絶対的平等”です。
1 相対的平等
相対的平等は、各人の現実の差異に着目してそれぞれに応じた取り扱いをすることです。平等を相対的に考えます。たとえば、男女別や体重別の競技などは相対的平等の概念を実現しています。一定の枠組み(男女別・体重別)に分けることで不平等がないようにし、一定の枠組み(男女別・体重別)の中では平等に扱います。
“実質的平等”と似ていますが、実質的平等は平等の内容を実質的にとらえる考え方で、累進課税の例のように自由と対立関係になることがあります。相対的平等は平等の取り扱い方法で、自由を行使するためにはどのように扱えば平等なのかを考えます。女性の生理休暇(男性は取得できない休暇)は相対的平等の現れだとされています。
2 絶対的平等
絶対的平等は、各人の性別・能力・年齢などの差異を考慮せず、一律に取り扱うことです。日本国憲法では採用されていないとされる平等概念です。
“形式的平等”と似ていますね。形式的平等は平等の内容を形式的にとらえる考え方です。対して絶対的平等は全てを一律に扱うことで、自由を行使するために一律に扱うのが平等だとする取り扱い方法です。
| まとめ
1 法の下の平等:平等権、平等原則!
2 平等の考え方:形式的平等、実質的平等!
3 平等な取扱方法:相対的平等、絶対的平等!