前回の“行政書士試験の憲法(人権の制約)”では、公務員や在監者など国家と特別な関係にある人たちの人権が制約されることを書きました。
今回は、国家以外の社会的な権力から人権を守る方法について書きたいと思います。
| 企業の人権侵害
憲法が考えている人権の侵害者は、従来国家でした。当時は国家くらいしか人権を侵害できる権力がなかったからです。“国家からの自由”から始まって“国家による自由”まで、全ては国家が対象になっていました。
ところが、資本主義が発達した現代では国家以外の社会的権力が台頭しています。大企業やマスメディアなどですね。このような権力が被雇用者や一般国民に対して、思想に関する制限をしたりSNSでの意見の発表を制限したりする可能性があります。
これらの社会的権力は国家ではありませんので、憲法が予定していた対象ではありません。そこで、このような私人に対しても憲法が適用されるのか問題になりました。人権の私人間での効力については諸説ありますが、結論を先に言ってしまうと“私人間でも憲法の人権規定は適用”されます。
その理屈ですが、考え方は2つあります。間接適用説と直接適用説です。
1 直接適用説
直接適用説では、憲法の人権規定が直接私人間にも適用されるとする考え方です。この説によると、社会的権力も国家と同じように規制を受けます。非常に簡明な理屈です。
ただ、直接適用説には大きな問題があります。たとえば、憲法には平等権が規定されていますが、そもそも原則として私人間では当事者の合意や契約の自由が最大限尊重されなければいけません。市民社会生活では何でもかんでも平等というわけではないのです。交渉次第ではモノを安く購入できたり便宜を図ってもらえたりするのが通常です。
ですから、憲法の人権規定を私人間に直接適用することは社会生活に馴染みません。
2 間接適用説
間接適用説では、憲法の人権規定が民法などの一般条項(民法1条、709条など)を通じて私人間に間接的に適用されるとする考え方です。現在の主流の考え方です。
判例では、間接適用説を採用したものに三菱樹脂事件(最大判昭48・12・12)があります。学生運動に参加していた学生が三菱樹脂に採用されましたが、使用期間後の本採用がなされませんでした。学生運動をしていないと申告していたけれど企業が思想・良心の自由を侵害しているとして訴えたところ、最高裁は企業の経済活動の一環として契約自由の原則があり特定の思想を持つ者の採用を拒んでも違法ではないと判断しました。
被雇用者の採用段階では思想・良心を理由に採用を拒むことができるとした判例です。ただ、被雇用者を採用した後で辞めさせる場合には思想・良心を理由にすることはできないのでご注意ください。
| まとめ
1 社会的権力の出現で憲法の対象が変化!
2 憲法の人権規定は私人間にも適用!
3 適用方法は直接適用と間接適用があります!