行政書士試験の憲法(人権の制約)

前回の“行政書士試験の憲法(公共の福祉)”では、人権は公共の福祉によって制約されるという話を書きました。実は、公共の福祉以外にも人権が制約される場面があるのです。

今回は、人権が制約される場面について書きたいと思います。

 

 

| 特殊な関係

 

一般に人権を制約するのは国家です。国家が国民に対して人権を制限するのですが、国家と特殊な関係にある人たちはより広範に人権が制約されます。特殊な関係とは、公務員や在監者のことを言います。

1 公務員の場合

公務員の人権は、政治活動の自由と労働基本権が制限されています。

(1)政治活動の自由

公務員が職務をする場合には政治的な中立が求められています。憲法第15条には次のような規定があります。

 

憲法 第15条

1項 略

2 すべて公務員は、全体の奉仕者であって、一部の奉仕者ではない。

3項、4項 略

 

政治的な思想によって一部の国民だけに対して便宜を図ることを禁止しています。公職選挙法にも次のような規定があります。

 

公職選挙法 第136条の2

次の各号のいずれかに該当する者は、その地位を利用して選挙運動をすることができない。

 一 国若しくは地方公共団体の公務員又は特定独立行政法人若しくは特定地方独立行政法人の役員若しくは職員

 二 沖縄振興開発金融公庫の役員又は職員(以下「公庫の役職員」という。)

2項 略

 

間違えてはいけないのは、これらの規定が公務員に対して政治活動をしてはいけないことを求めているのではありません。公務員にも政治活動の自由があります。ところが、公務員の行う公務は政治的に中立でなければいけないのです。猿払事件という判例では、次のように言っています。長いですが引用します。

 

一般職に属する公務員は, 国の行政の運営を担任することを職務とする公務員であるから, その職務の遂行にあたつては厳に政治的に中正の立場を堅持し, いやしくも一部の階級若しくは一派の政党又は政治団体に偏することを許されないものであつて, かくしてはじめて, 一般職に属する公務員が憲法一五条にいう全体の奉仕者である所以も全うせられ, また政治にかかわりなく法規の下において民主的且つ能率的に運営せらるべき行政の継続性と安定性も確保されうるものといわなければならない。

 

簡単にまとめますと、“公務をするには政治的中立性を堅持しなければいけない。そうすることで憲法15条を守ることができるし、民主的・効率的な公務の継続性・安定性が確保される”としています。

(2)労働基本権

公務員には労働基本権の一つである“団体行動権”が制限されています。団体行動(ストライキ)をして交渉をしなくても人事院によって待遇は定められていますし、抗議をするのなら人事院に対して行うべきです。

また、民間企業では利益が上がらなければ倒産の危機に直面しますが、公務員は人事院によって身分が保証されていますので団体行動(ストライキ)を行うリスクがありません。これを認めてしまうと公務員はストライキがし放題になってしまいます。

公務員が団体行動(ストライキ)をすると、社会生活に重大な影響があります。たとえば、警察官が団体行動(ストライキ)をすると、治安維持ができません。消防官が団体行動(ストライキ)をすると、救急車が発動できませんし火事現場での消火活動もできません。

選挙運動の事由に比べてこちらの方が理解しやすいのではないでしょうか。

判決としては、全逓東京中郵事件や全農林警職法事件があります。

全逓東京中郵事件(最判昭41・10・26)では、郵便局員らが勤務時間にまで争議行為をして待遇改善を求めましたが、郵便物不取り扱いの罪で起訴されてしまいました。人権侵害を訴えたところ、最高裁は公務員の労働基本権の保障を認め、制限は必要最小限に限られるとして郵便局員らの訴えを認めました。

全農林警職法事件(最大判昭48・4・25)では、軽食法改正法案に対して農林省職員が争議行動をしましたが、首謀者が争議行為をあおる罪で起訴されました。公務員の争議行為を争ったところ、最高裁は公務員の争議行為を一律に全面禁止としました。

現在では、公務員の争議行為(ストライキ)は一律に全面禁止と考えられています。

2 在監者の場合

在監者は知る権利や喫煙の自由などが制限されています。刑務所で騒ぎを起こした隙に脱獄、罪証隠滅、暴行・傷害などを防ぐために必要最小限度の制限がなされています。

判例では、よど号ハイジャック記事抹消事件(最大判昭58・6・22)があります。

拘置所に勾留されていた人が私費で新聞を買っていたけれども、拘置所がよど号ハイジャック事件の記事を黒塗りしました。知る権利が侵害されたとして訴えたところ、在監者が閲覧する新聞記事は相当の具体的蓋然性があれば抹消しても良いとされました。十中八九で何らかの騒動が起きることが予測される場合には、新聞記事を抹消しても良いとされたのです。

 

 

| まとめ

 

1 公務員の政治活動の制限は公務の中立性のため!

2 公務員は団体行動(ストライキ)をしてはダメ!

3 在監者の知る権利も制限!



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