近年は高齢化の影響で独り暮らしをされている高齢者が多くいらっしゃいます。当事務所へご相談に来られる方は一人暮らしの高齢者の方が多いです。お話を伺ってみると、色々な不安があるようです。
今回は高齢者のお一人暮らしの不安への対策を書きたいと思います。かなり長くなりますので、このページをブックマーク(お気に入り登録)していただき何回かに分けて読んでもらえると嬉しいです。
| 高齢者の不安やリスク
高齢者の不安やリスクには次のようなものがあります。
1 倒れたり病気になったりしたときの不安
孤独死につながる可能性があります。不安に思っている高齢者が多いと思います。
2 親族と疎遠で普段から頼れる人がいない
孤独死とも関係しますが、認知症などの症状の進行するリスクもあります。また、事件の被害者になったりするリスクや自然災害時の避難ができないリスクも高まります。
3 亡くなったときに後始末をしてくれる人がいない
親族を頼れない場合にどのように準備をしておけばいいのか分からない方が多いです。国や市町村の情報発信だけでなく、我々士業の情報発信が甘いのだと思います。
4 遺産の分配が不安
疎遠な親族に遺産を渡したくない、お世話になった人に遺産を分けたいなど相続財産の処分に不安を抱えていらっしゃる方が多いです。
| 見守りサービス
1人暮らしの高齢者の不安やリスクへの対策はいくつかあります。突然倒れた時などに心強いのが見守りサービスです。もちろん孤独死にも対応しています。民間の警備会社のサービスもありますし、行政の行っているサービスもあります。
1 民間の警備会社の見守りサービス
民間の警備会社の場合には、ご自宅に機器を設置して緊急時にボタンを押すタイプや家電などに機械を取り付けて異常があれば警備会社に通報してくれるタイプなど、さまざまなサービスを提供しています。機器は購入するパターンやレンタルするパターンがあります。購入する場合にはおおよそ月額2000円程度、機器代・取り付け代がおおよそ5万円程度からあります。レンタルするパターンはおおよそ月額4000円程度からあります。
2 行政のサービス
行政が行っているサービスには、民生委員による見回り、社会福祉協議会・地域包括支援センターによる介護サービス、福祉課による相談・取次などがあります。お住まいの市区町村役場の福祉課にご相談ください。
3 郵便局による見守りサービス
郵便局も見守りサービスを行っています。月1回の訪問をするサービスや毎日の電話サービス、駆けつけサービスもあります。月1回の訪問サービスで月額2500円です。
4 士業などによる見守りサービス
司法書士や行政書士が定期的に訪問をしたり電話をしたりするサービスを行っている事務所があります。士業の見守りサービスは比較的高額ですが、何かあった後の対応は専門家が対応しますので安心です。見守りサービスの内容によって費用は大きく変わりますが、おおよそ月額1万~5万円程度です。
| その他の安心
見守りサービスではちょっと…と思われる方でも、安心を得られる方法があります。ここでは3つご紹介します。
1 自治会や町内会などへの参加
持家にお住まいの方でしたら自治会や町内会には加入していると思います。単に加入するだけでなく、婦人会や老人クラブに参加してみてはいかがでしょうか。町内の方とつながりが強くなると、世話好きの役員の方などが普段から気にしてくれるようになります。近年の町内会は“老人会”と言われるほど高齢者の割合が高くなっていて、一人暮らしの高齢者が町内の2/3という地域もあるようです。町内の方の葬儀が毎月行われているという町内会もあります。町内会の部会に積極的に参加することで、ある程度の安心感を得られるのではないでしょうか。賃貸住宅にお住まいの方でも町内会には入会できますので、近所の方に尋ねてみてください。
2 サークル活動への参加
町内の方々との付き合いはちょっと…という方は、趣味のサークル活動に参加してみるのはいかがでしょうか。男性の方でしたらカメラ(写真)やスポーツのサークル、助成の方でしたら園芸やお茶会などのサークルもあります。スポーツのサークルは男女どちらでも参加しやすいのではないでしょうか。高齢者の方に人気のスポーツは、ウォーキング、ゴルフ、ヨガ、水泳、登山(ハイキング)、テニス、卓球などです。市民体育館などの公共施設を利用しているサークルは市区町村に問い合わせてみると教えてもらえます。
3 家族との同居、近隣への移住
一番手っ取り早い解決方法でしょうか。ただ、家族と同居できるのならもうやってるという方も多いと思います。同居ができなくても近所に移住するのもよいと思います。徒歩10分(800m)の範囲だと近すぎるというのでしたら、自転車で10~20分程度の距離(3~5㎞)を検討してください。かなり安心感が強くなり疎外感も解消できると思います。
| 施設への入所の不安対策
病院への入院や施設への入所をすることになったときの身元引受人や認知症になったときの金銭管理・監護、亡くなったときの後処理などへの対策を書きたいと思います。
1 入院や入所時の身元引受人
病院に入院したり施設に入所したりするときには身元引受人がいなければいけません。お子さんや近所の方に頼めるのであれば問題ありませんが、1人暮らしをされている高齢者の方にはそれほど親密なお付き合いをされている方がいなかったり、迷惑をかけることを懸念してお願いできないと言われたりする方が多くいらっしゃいます。
そのような場合には、弁護士、司法書士、行政書士を頼ってみてください。ある程度の費用は掛かりますが、身元引受人を業務として行っている事務所があります。社会福祉協議会が紹介をしている自治体もあります。市区町村の福祉課や社会福祉協議会にご相談ください。
2 任意後見人を選ぶ
認知症になったときの対策として、信頼できる人を任意後見人に選んでお願いをしておく方法があります。任意後見人を選ぶときには、後見人を引き受けてくれる方と任意後見契約を締結する必要があります。この任意後見契約は公正証書でなければいけません。任意後見人は、裁判所の手続きを経て選任されます。公正証書の任意後見契約書があれば、ほぼそのまま選任されます。弁護士、司法書士、行政書士が人に後見人を引き受けることもあります。任意後見契約については司法書士や行政書士にご相談ください。
3 死後の事務を委任する
亡くなった後の葬儀の手配、水道光熱費の支払、病院や施設への残金の支払いなどの手続きを行ってほしい場合には、死後の事務を委任することができます。葬儀屋に依頼することもできますが、その場合には火葬・埋葬しか行ってくれないことが多いです。死後の事務を委任するには、手続をしてくれる方と死後事務委任契約を締結します。任意後見契約とひとまとめにして公正証書にすることもできます。任意後見人になってくれる人にお願いすることが多いです。
| 亡くなった後の不安対策
亡くなった後、子供たちに負担をかけないか不安になります。少しでも安心を得られるために遺言書を書いておくことをお勧めします。
1 遺言の種類
遺言にはいろいろな種類があります。一番身近な遺言は“自筆証書遺言”です。その他にも緊急時などに行う遺言などもあります。
(1)特別方式
・危急時遺言(一般危急時遺言、難船危急時遺言)
・隔絶地遺言(一般隔離者遺言、船舶隔絶地遺言)
(2)普通方式
・自筆証書遺言
・秘密証書遺言
・公正証書遺言
特別方式による遺言は前々から準備をしておくものではありませんので、ここでは省略します。
2 おすすめの遺言
普通方式でのおすすめは公正証書遺言です。時間も手間も費用も掛かりますが、内容に法律的な間違いはありませんし、自筆証書遺言のような裁判所の検認手続が不要ですのでおすすめしています。
公正証書遺言の作成については、公証役場に問い合わせてもいいですし、弁護士、司法書士、行政書士に相談することもできます。
自筆証書遺言を書きたいけれども、どのようにして書けばいいのか分からないという方も弁護士、司法書士、行政書士にご相談ください。有料での遺言書作成指導を行っています。
3 遺言作成時の注意点
公正証書遺言の場合には専門家によるチェックがありますから安心ですが、自筆証書遺言や秘密証書遺言ではチェックがありませんので注意が必要です。遺言はかなり厳格な要式が定まっています。注意点を簡単に列挙します。。
(1)全文が自署であること
遺言書は全文が自署でなければいけません。代筆はもちろんダメですし、ワープロ打ちもダメです。
(2)日付
日付は正確に記入する必要があります。“吉日”“末日”などの表現はダメです。無効になりますのでご注意ください。西暦でも元号でもOKです。
(3)氏名
かならず自署をします。
(4)押印
認印でOKです。拇印でもよいとする判例があります。
(5)筆記具
鉛筆やシャープペンシルはもちろんダメですし、パイロットのフリクションボールのような消せるボールペンもダメです。
(6)用紙
文字が消える可能性のある感熱紙などはダメです。コピー用紙でもいいですし、便箋でもかまいません。
(7)表現方法
注意点がいくつかあります。
・相続:法定相続人に遺産を譲る場合
・遺贈:法定相続人以外の人に遺産を譲る場合
・相手方の氏名:戸籍のとおりに記載
・続柄と生年月日:相手方の氏名に続けて( )内に記載
・預金、貯金:金融機関名、支店名、口座番号を記載
・不動産:登記簿のとおりに記載
・“その他の財産は◯◯に相続させる(遺贈する)”との文言の記載
・借入額の記載
・遺留分を考慮した記載
・寄与分、特別受益、代襲相続に考慮した記載
・“ただし相続人(受遺者)◯◯が遺言者よりも先に死亡した場合は、●●へ相続させる(遺贈する)”との文言の記載
・遺言執行者の指定
・祭祀承継者の指定
・付言に意図や理由の記載が可
(8)契印
遺言が複数枚になる場合には、それぞれにページ番号を記入して契印(割印)をします。
(9)封印
封筒に入れて封印をします。封筒の紙の切れ目(つなぎ目、糊付け部分の全ての箇所)には、遺言に押したものと同じ印を押します。
(10)同封資料
財産目録を同封します。財産目録は代筆でもOKですし、ワープロ打ちでもOKです。また、不動産登記簿謄本を入れておいたり、預貯金の通帳のコピーを同封したりしてもOKです。ただし、自署ではない財産目録の場合には、全てのページに署名押印をしなければいけません。押印は遺言書や封印と同じ印を使います。
長くなりましたが、一人暮らしの高齢者の不安対策について書きました。これだけの準備ができていればかなり安心できるのではないでしょうか。
遺言の書き方が分からない場合には、弁護士、司法書士、行政書士など専門家に相談をしてください。
| まとめ
1 不安解消への第一歩は見守りサービス!
2 婦人会や老人クラブの参加で安心感を!
3 身元引受人は社会福祉協議会に相談!
4 遺言は公正証書遺言がおすすめ!