2020年になってから京都で行政書士が逮捕されました。在留資格を不正に更新した疑いです。人材派遣会社の男性と不法就労をした女性の合計3人が逮捕されています。
入管法でいうところの“不法就労”には不法入国や不法残留による就労も含まれますが、不法入国をしていなくても、在留資格の更新のときに虚偽の申請書を提出しても“不法就労”になります。
不法就労の外国人を雇用した経営者は3年以下の懲役または300万円以下の罰金に処せられる可能性があります。今回は行政書士の逮捕について書きたいと思います。
| 行政書士は何罪で逮捕されたの?
前回、前々回の記事で、不法就労をした本人が退去強制の対象であること、雇用者が3年以下の懲役または300万円以下の罰金の罪になることを書きました。
今回の事件では、不法就労した女性は退去強制の可能性が高いですし、人材派遣会社の男性は不法就労助長罪で懲役刑か罰金刑になる可能性があります。
では、逮捕された行政書士はどのような罪になるのでしょうか。もう一度入管法第73条の2を見てみましょう。
出入国管理及び難民認定法
第73条の2 次の各号のいずれかに該当する者は、三年以下の懲役若しくは三百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
一 事業活動に関し、外国人に不法就労活動をさせた者
二 外国人に不法就労活動をさせるためにこれを自己の支配下に置いた者
三 業として、外国人に不法就労活動をさせる行為又は前号の行為に関しあつせんした者
2 前項各号に該当する行為をした者は、次の各号のいずれかに該当することを知らないことを理由として、同項の規定による処罰を免れることができない。ただし、過失のないときは、この限りでない。
一 当該外国人の活動が当該外国人の在留資格に応じた活動に属しない収入を伴う事業を運営する活動又は報酬を受ける活動であること。
二 当該外国人が当該外国人の活動を行うに当たり第十九条第二項の許可を受けていないこと。
三 当該外国人が第七十条第一項第一号、第二号、第三号から第三号の三まで、第五号、第七号から第七号の三まで又は第八号の二から第八号の四までに掲げる者であること。
第1項第1号の“不法就労活動をさせた者”にあたる可能性もありますが、“事業活動に関し”の解釈次第になるでしょう。単独正犯にはならなくても、73条の2の共同正犯や幇助犯になる可能性もあります。
第73条の2よりももっと直接的に違反している条文があります。今回の事件では、行政書士は在留期間の更新にあたって虚偽の申請をしています。ですので、まず在留期間の更新を定めた第21条を見てみましょう。
出入国管理及び難民認定法
第21条 本邦に在留する外国人は、現に有する在留資格を変更することなく、在留期間の更新を受けることができる。
2 前項の規定により在留期間の更新を受けようとする外国人は、法務省令で定める手続により、法務大臣に対し在留期間の更新を申請しなければならない。
3 前項の規定による申請があつた場合には、法務大臣は、当該外国人が提出した文書により在留期間の更新を適当と認めるに足りる相当の理由があるときに限り、これを許可することができる。
4 省略
第21条では、外国人が在留資格を変更することなく在留期間の更新ができること、在留期間の更新をする場合には申請をしなければいけないことが書かれています。
第21条に違反した場合の罰則は第70条にあります。
出入国管理及び難民認定法
第70条 次の各号のいずれかに該当する者は、三年以下の懲役若しくは禁錮若しくは三百万円以下の罰金に処し、又はその懲役若しくは禁錮及び罰金を併科する。
第1~4号 省略
五 在留期間の更新又は変更を受けないで在留期間(第二十条第六項(第二十一条第四項において準用する場合を含む。)の規定により本邦に在留することができる期間を含む。)を経過して本邦に残留する者
第6~9号 省略
第2項 省略
第70条第1項第5号では在留期間の更新などを受けないで不法に在留した場合を規定しています。違反した場合には3年以下の懲役・禁固または300万円以下の罰金になります。
正しい申請をすれば在留期間の更新ができないのに、虚偽の申請をすることで在留期間の更新を許可された場合には、虚偽の申請であることが分かると在留資格が取り消されて在留期間の更新はなかったことになります。正犯は外国人本人です。行政書士ではありません。
行政書士が虚偽の申請を取り次いだ場合には、共同正犯か幇助犯になりそうです。3年以下の懲役・禁固または300万円以下の罰金になるか、従犯としてもう少し軽い罪になる可能性があります。行政書士資格が剥奪されたり行政書士会の退会事由になったりしそうです。
以上から、外国人の女性は3年以下の罰金・懲役または300万円以下の罰金に処断されたり退去強制されたりする可能性があります。人材派遣会社は3年以下の懲役か300万円以下の罰金に処断される可能性があります。虚偽申請を取り次いだ行政書士は3年以下の懲役・禁固または300万円以下の罰金に処断される可能性があります。
・外国人の女性(入管法70条違反)
3年以下の罰金・懲役 または 300万円以下の罰金
退去強制
・人材派遣会社(入管法73条の2違反)
3年以下の懲役 または 300万円以下の罰金
・行政書士(入管法70条違反)
3年以下の懲役・禁固 または 300万円以下の罰金
| まとめ
1 虚偽申請を取り次いだ行政書士は懲役・禁固、罰金刑!?
2 行政書士資格も剥奪されるかも!?
3 虚偽の申請をした代償は大きいので正しい申請を!