行政書士と職務上請求書

職務上請求書は、業務を遂行するために必要な戸籍や住民票を取得することができる請求書です。これを不正に使った犯罪は後を絶ちません。つい先日も宇都宮市の行政書士が逮捕されました。

今回は職務上請求書について書きたいと思います。

 

 

｜　職務上請求書って？

 

職務上請求は、特定の事務受任者が職務遂行のために戸籍や住民票の写しなどを請求することを言います。特定の事務受任者は、弁護士、司法書士、土地家屋調査士、税理士、社会保険労務士、弁理士、海事代理士、行政書士です。いわゆる8士業ですね。

行政書士の場合、“職務上請求書の適正な使用及び取扱いに関する規則”によって、職務上請求書の使用方法が限定されています。

職務上請求書は委任状とは違って直接本人からの依頼がなくても業務を遂行する上で必要な戸籍や住民票を取得できますので、犯罪に使われることが多くあります。

 

 

｜　行政書士による不正な職務上請求

 

2021年8月5日の毎日新聞の記事に、行政書士が職務上請求書を使って不正に戸籍などを請求したとの二街で逮捕されました。2017年ごろから800回ほど不正請求していたそうです。800回というのはすごい数です。職務上請求書が何冊になるのでしょうか。

逮捕した兵庫県警によると、兵庫県加古川市などから男女3人の戸籍や住民票など計8通を不正に取得したようです。戸籍や住民票の取得は探偵業者からの依頼だったとのことです。

人探しは戸籍を追って住民票を取得すれば居場所が特定できます。もちろん住民票の住所にいないということはありますので100%ではありません。しかし、探偵業者にはできない人探し方法ですから、探偵業者にとっては便利で使いやすいのでしょう。

 

 

｜　職務上請求書の使用制限

 

職務上請求書は他者のプライバシーをのぞき見することになりますから、使用方法には制約があります。行政書士の場合には、“職務上請求書の適正な使用及び取扱いに関する規則”に書かれています。

少し読んでみましょう。

 

第5条（使用の制限）

行政書士又は行政書士法人は、職務上請求書を、その職務上必要な請求に限り使用できるものとし、これ以外の請求や、身元調査等、人権侵害のおそれがある使用は、これを行ってはならない。

２　以下省略

 

このように“職務上必要な請求に限り使用できる”とされています。つまり、戸籍の取得、住民票の写しの取得だけの依頼を受けた場合に、この職務上請求書は使えないのです。本人から依頼を受けた場合には本人から委任状をもらえばいいのですから。先ほどの行政書士は戸籍法以外にもこの規則にも違反していることになります。

職務上請求書を使う場合は、たとえば遺産分割協議書を作成するために法定相続人を確定する必要がある場合とか帰化申請のときに法務局へ提出するために取得をする場合とか、何らかの業務の中で必要になった場合です。

 

また、使用者も制限されています。

 

第6条（使用者）

個人開業の行政書士（行政書士の使用人である行政書士又は行政書士法人の社員若しくは使用人である行政書士以外の行政書士をいう。以下において同じ。）又は行政書士法人は、職務上請求書を、当該行政書士本人若しくはその使用人である行政書士又は当該行政書士法人若しくはその使用人である行政書士以外の者に使用させてはならない。

２　行政書士又は行政書士法人が職務上請求書を使用して戸籍謄本等を請求する際、当該行政書士又は行政書士法人の使者とすることができる者は、当該行政書士又は行政書士法人の補助者（法施行規則第5条又は第12条の3に規定する「補助者」をいう。）のみとする。

 

職務上請求書を使えるのは、行政書士本人のみということになります。実際に職務上請求書を役所に持って行って戸籍などをもらってくるのは、行政書士本人か補助者だけです。第7条には職務上請求書を使って窓口で戸籍などを取得するときには、行政書士証票や単位会の会員証、補助者の場合は補助者証の提示が必要です。

 

保管についてもうるさく言っています。

 

第11条（適正な管理）

行政書士又は行政書士法人は、職務上請求書の盗難、紛失又は毀損を防止するよう適切に管理しなければならない。

２　個人開業の行政書士又は行政書士法人は、その使用人である行政書士又は補助者が当該行政書士又は行政書士法人の管理に属する職務上請求書に関して行った行為については、その責任を負わなければならない。

３　職務上請求書の綴りは、使用中のものを含めて、個人開業の行政書士である会員は2冊まで、行政書士法人である会員は2冊に加えて所属する社員行政書士の人数に2を乗した数まで、所有することができるものとする。

 

職務上請求書はしっかりと管理して、従業員が使った場合にはその責任を負わなければいけません。職務上請求書の所有数も限定されています。

 

このように、職務上請求書の使用・管理はかなり厳しく制限されています。そのため、違反する行為にも厳しく対処することになっています。

ですから、職務上請求書が使える場面でも職務上請求書を使わず委任状でなんとかする士業の方も多くいらっしゃいます。このような士業の方は“職務上請求書は怖い”と言われます。

 

 

｜　まとめ

 

１　職務上請求書で委任状なしに戸籍謄本を取得可！

２　職務上請求書は不正に使用されることがある！

３　職務上請求書の使用・管理は厳しく規制されている！