後見人の横領事件での家庭裁判所の責任

財産の管理ができなくなって後見人が選任されるときは、家庭裁判所が後見人の候補者の中から選任します。通常、親族などが後見人になるという希望を伝えると、問題がない限り希望者が後見人になるようです。

2012年という少し前の裁判例では、後見人が被後見人の財産を着服した事件で、後見人を選任した家庭裁判所の責任が問われました。

少し特殊なケースですが、2012年の裁判例を見てみます。

 

 

| 家庭裁判所の責任が問われる特殊事情

 

交通事故の被害者が脳死状態になりました。被害者には親戚付き合いをしていた姪がいましたが、妻や子供はいませんでした。姪は献身的に被害者を見舞い、被害者の世話をしていたようです。

交通事故を担当した保険会社は、保険金約4,800万円を支払うことになりましたが、被害者は脳死状態にあるため、保険金を支払っても財産の管理ができません。そこで、保険会社は財産の管理者を定めるために後見人を選任するように被害者側へ話をしました。

被害者側は後見人を定めるように手続きをしましたが、後見人の候補者は被害者のセイワをしていた姪か被害者の姉である姪の母親くらいしかいなかったようです。被害者の姉には精神障害があったようで、後見人には姪が就任することになりました。

ところが、姪には精神遅滞障害があり精神年齢8歳程度であったようです。この事実を家庭裁判所は見逃して後見人に選任しました。後見人に選任した姪は母親(被害者の姉)と結託して、保険金として支払われた被害者の財産約3,500万円を着服しました。3,500万円は、飲食費や遊行費、交際相手の家の工事代金、知人への貸与などとして使ったそうです。

 

 

| 裁判所の認めた家庭裁判所の責任

 

2012年の裁判例では、家庭裁判所の責任を認めて約230万円の支払を命じました。3,500万円のうちの230万円は約6.5%です。横領した責任の1/15が家庭裁判所にあるという判断です。

家庭裁判所が後見人として姪を選任した際に、姪が財産を横領するという認識はなかったですし、財産を横領することを容易に認識しえたとも言えないとして、後見人の選任段階での家庭裁判所の責任は認めませんでした。

家庭裁判所は後見を監督する責任がありますが、姪を後見人に選任した1年後に行われた第1回の後見監督のときに、姪の口座に支払われた保険金が入金されていることを知り、この保険金を被害者の口座へ移すように指導しています。姪はこの指導に従って、被害者の口座に保険金を移し替えています。

この段階でも後見人の横領行為を容易に認識しえたとは言えないとして、第1回後見監督時点での家庭裁判所の責任は認めませんでした。

第1回後見監督のさらに1年後に第2回後見監督が行われました。第2回後見監督では、第1回の後見監督から第2回の後見監督までの1年間に後見人の姪が保険金3,500万円を飲食費などに流用していたことに気づきました。

ところが、家庭裁判所は職権で後見人を解約できるにもかかわらず、横領発覚後においても後見人を解任しませんでした。この不作為は国家賠償法上の違法行為に当たるとして家庭裁判所の責任を認めました。

交通事故による脳死状態という突発的な状況で、後見人の候補者が限られていたという特殊な事案です。通常の高齢者の後見人を選任する場合には時間的な余裕がありますから、家庭裁判所も十分に調査ができるでしょう。このような選任の誤りをしないようにして欲しいですね。

 

 

| まとめ

 

1 知的障害を見逃して後見人を選任!

2 財産の流用が分かったら後見人をすぐに解任しないと違法!?

3 家庭裁判所が後見人の監督に責任を負う場合があります!



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