行政書士試験の記述は大丈夫? - 義務付け訴訟、訴えの利益、原処分主義、形式的当事者訴訟

2019年の行政書士試験は11月10日(日)に行われます。2019年度の試験の難易度は分かりませんが、出題ミスがなければ10%前後になるのではないでしょうか。

行政書士試験での一番のポイントは“記述式でどれだけ安定して得点ができるか”ではないでしょうか。受験生の皆さんは過去問や問題集で演習をしていることと思います。今回のシリーズは記述式試験(過去問)の解答への考え方を書きます。あくまでも私アシュラとして…ですので、ご了承ください。

今回から行政法です。試験まで日にちがありませんので、重要なものだけをピックアップしていきます。よろしくお願いします。

過去問(2013年度以降)は行政書士試験研究センターのサイトにあります。

 

 

| 行政法 - 義務付け訴訟

 

問題 (2008年度 第44問)

Xは、Y県内に産業廃棄物処理施設の設置を計画し、「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」に基づき、Y県知事に対して設置許可を申請した。しかし、Y県知事は、同法所定の要件を満たさないとして、申請に対し拒否処分をした。これを不服としたXは、施設の設置を可能とするため、これに対する訴訟の提起を検討している。Xは、誰を被告として、いかなる種類の訴訟を提起すべきか。40字程度で記述しなさい。

 

問題文では“誰を被告として”“いかなる種類の訴訟を提起すべきか”を問うています。ですから、(1)被告は誰か、(2)訴訟の種類を書けなければ点数になりません。

行政事件訴訟での被告はそれほど難しくありません。

1 処分・裁決をした行政庁の属する国・公共団体

2 処分・裁決をした行政庁

3 処分・裁決に係る事務の属する国・公共団体

ほとんどの行政庁は国か公共団体に所属していますので、被告は国や公共団体になることが多いです。当事者訴訟のときにはご注意ください。

本事案では、Y県が拒否処分をしていますから被告はY県です。

また、Xは申請を受理して施設設置の許可を出して欲しいと考えています。ですから、拒否処分の取消訴訟と施設設置許可の義務付け訴訟を提起することになります。問題はこの2つをどうやって提起するかです。

これは知らないとどうしようもありません。義務付け訴訟を提起する場合には処分の取り消し訴訟を併合提起します。

 

“Y県を被告として、拒否処分の取消訴訟と施設設置許可の義務付け訴訟とを併合提起する。”(41字)

 

 

| 行政法 - 訴えの利益

 

問題 (2006年度 第44問)

保健所長がした食品衛生法に基づく飲食店の営業許可について、近隣の飲食店営業者が営業上の利益を害されるとして取消訴訟を提起した場合、裁判所は、どのような理由で、どのような判決をすることとなるか。40字程度で記述しなさい。

 

問題文では“どのような理由で”“どのような判決をすることになるか”を問うています。ですから、(1)判決の理由、(2)判決の種類を書けなければ点数になりません。

この問題を初めて見たときは難しく感じるかもしれません。判決は、通常、認容判決か棄却判決です。ただ、形式的な不備がある場合には却下判決がなされます。形式的な不備があると内容を審査するまでに至らないからです。却下判決をするのは裁判所ではなく裁判長です。

本事例の場合、飲食店の営業許可について、近隣の飲食店が営業上の利益を害されるとして取消訴訟を提起しています。

誰でも取消訴訟を提起できるのなら、許可処分が出るたびに日本全国で取消訴訟が提起されてしまいます。許可処分について異論を言えるのは、当事者か利害関係人だけです。ですから、いくら営業上の利益を害されるからといって取消訴訟を提起することはできません。訴えの利益がないからです。

訴えの利益がない場合には、原告的額がないのですから本案審査に入ることができません。つまり、却下判決がなされます。

 

“裁判所は、原告に法律上の利益がなく原告適格を欠くという理由で、却下判決をする。”(39字)

 

 

 

| 行政法 - 原処分主義

 

問題 (2015年度 第44問)

Xは、Y県内で開発行為を行うことを計画し、Y県知事に都市計画法に基づく開発許可を申請した。しかし、知事は、この開発行為によりがけ崩れの危険があるなど、同法所定の許可要件を充たさないとして、申請を拒否する処分をした。これを不服としたXは、Y県開発審査会に審査請求をしたが、同審査会も拒否処分を妥当として審査請求を棄却する裁決をした。このため、Xは、申請拒否処分と棄却裁決の両方につき取消訴訟を提起した。このうち、裁決取消訴訟の被告はどこか。また、こうした裁決取消訴訟においては、一般に、どのような主張が許され、こうした原則を何と呼ぶか。40字程度で記述しなさい。

 

問題文では“裁決取消訴訟の被告はどこか”“どのような主張が許され”“こうした原則を何と呼ぶか”を問うています。ですから、(1)裁決取消訴訟の被告、(2)許される主張の内容、(3)原則名を書けなければ点数になりません。

この問題の解答は被告以外の内容に影響を受けません。裁決取消訴訟で可能な主張内容や原則名は一般的な択一問題みたいに感じられます。まずはこの2つから攻めましょう。

裁決取消訴訟では、許可申請の拒否処分の取り消しを求めることはできません。処分の取り消しを求めるのなら処分の取消訴訟を提起すべきです。裁決の取消訴訟ですから、裁決が正しく行われたかどうか妥当かどうかが判断されるべきです。

ですから、裁決訴訟で可能な主張内容は裁決固有の瑕疵だけです。

解答例 “裁決固有の瑕疵のみを主張でき”

次に、このような原則は何というでしょうか。知らなければ絶対に分かりません。

解答例 “原処分主義と呼ぶ。”

最後に、誰を被告とするのかを考えましょう。行政事件訴訟での被告は、原則として行政庁の属する国や公共団体です。ですから、本問ではY県が被告になります。

解答例 “被告はY県”

 

“被告はY県であり、裁決固有の瑕疵のみを主張が許される。この原則を原処分主義と呼ぶ。”(41字)

 

 

| 行政法 - 形式的当事者訴訟

 

問題 (2012年度 第44問)

Xは、A県 B市内に土地を所有していたが、B市による市道の拡張工事のために、当該土地の買収の打診を受けた。Xは、土地を手放すこと自体には異議がなかったものの、B市から提示された買収価格に不満があったため、買収に応じなかった。ところが、B市の申請を受けたA県収用委員会は、当該土地について土地収用法48条に基づく収用裁決(権利取得裁決)をした。しかし、Xは、この裁決において決定された損失補償の額についても、低額にすぎるとして、不服である。より高額な補償を求めるためには、Xは、だれを被告として、どのような訴訟を提起すべきか。また、このような訴訟を行政法学において何と呼ぶか。40字程度で記述しなさい。

 

問題文では“誰を被告として”“どのような訴訟を提起すべきか”を問うています。ですから、(1)被告は誰か、(2)訴訟の種類を書けなければ点数になりません。

被告は誰かから考えてみましょう。本問はB市の市道拡張工事のための土地収用で金額に不服がある場面です。市道の拡張で土地の収用を決めたのはB市、土地収用の金額を認定したのはA県収用委員会です。

素直に考えると、Xは金額に不服があるので金額を認定したA県収用委員会の属するA県を被告にしたいところです。ところが、補償額を認定したのは確かにA県収用委員会なのですが、実は補償額を決めたのはB市なのです。B市が決めた補償額をA県収用委員会が認定するという流れなのです。これを知っておく必要はありませんが、土地の収用では事業者(本問ではB市)が被告になることを覚えておきましょう。

解答例 “B市を被告として”

次に、訴訟の種類を考えます。行政事件訴訟には多くの種類があります。

1 取消訴訟(抗告訴訟)

2 無効等確認訴訟(抗告訴訟、主観訴訟)

3 不作為の違法確認訴訟(抗告訴訟、主観訴訟)

4 義務付けの訴え(抗告訴訟、主観訴訟)

5 差止めの訴え(抗告訴訟、主観訴訟)

6 形式的当事者訴訟(当事者訴訟、主観訴訟)

7 実質的当事者訴訟(当事者訴訟、主観訴訟)

8 民衆訴訟(客観訴訟)

9 機関訴訟(客観訴訟)

本問では、補償額の決定は法律関係を形成する処分です。また、補償額の増減を争う場合には当事者同士で争わせた方が直接的で解決しやすいです。そこで、このような場合に当事者の一方を被告とする訴訟を形式的当事者訴訟といいます。

形式的当事者訴訟の定義は“当事者間の法律関係を確認し又は形成する処分又は裁決に関する訴訟で、法律関係の当事者の一方を被告とするもの”です。収用の補償金額に不服がある場合の争いが典型例です。

解答例 “補償の増額を求める訴訟を提起すべき”

 

“B市を被告として、補償の増額を求める訴訟を提起すべきで、これを形式的当事者訴訟と呼ぶ。”(43字)

 

 

| まとめ

 

1 義務付け訴訟は取消訴訟との併合提起!

2 訴えの利益がなければ却下判決!

3 被告と訴訟類型は丸暗記!



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